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結局あいつはなんだったんだろうか。
どうやら鍵を開けたままになっていた窓から入ってきたみたいで、冷蔵庫以外の物を荒らした様子もなかったし謎は残ったままだ。
しかしあの通りの弱電波だ、下手に踏み込んでしまうと後が面倒だ。
今度から窓の施錠は確認しないとな。
なんて考えながら歩くいつもの通学路。
既に登校時間は過ぎていて、当たり前のように辺りに制服姿の人間は居ない。
……と言いたいところだが、約一名、俺と同じ学ラン姿のやつがいた。
「おはよう、道真君」
「静間……またサボりか」
「サボりじゃないよ、先約があってさ」
静間良平。俺のクラスメート兼腐れ縁の幼馴染。
育ちの良さそうな、悪く言えばなよっとした女々しい雰囲気の静間だがそこら辺のやつよりも食えないやつということを俺は嫌というほど知っている。
「授業よりも優先させるものねえ」
「やだな、その目。まるで人をゴミかなにかみたいに見ないでよ。興奮するから」
「……」
「冗談だってば、冗談」
その割には目が笑っていないのが気になったが、まあいい。度々言動が気持ち悪くなるのはいつものことなので聞き流す。
「なに、君、やけにテンション低いね」
「まあ、ちょっとな」
「なに、その適当な濁し方。逆にすごく気になるんだけどわざとかな。新手のプレイ?」
適当に流そうと思ったのだが、歯切れの悪い俺に静間は鼻息荒く迫ってくる。
やけに絡んでくる静間を振り払いつつ、別に隠すようなことでもないなと判断した俺は口を開いた。
「なんつーか、その、朝から泥棒が……」
ゴニョゴニョと口ごもる俺に、静間が「泥棒?」と目を丸くする。
その瞬間だった。
「待てや泥棒ーーッ!!」
「「!!」」
閑散とした住宅街に響く、場違いな程荒いその怒声に俺と静間は顔を見合わせた。
そして、何事かと声のする方を振り返れば、向かい側の道路。飛び出してきた一つの黒い影。
白い眼帯に覆われた右目。見覚えのあるよれよれのジャージに身を包んだその男の手には有名コンビニの買い物袋が握られていて。
「って、あいつ……」
凄まじい速さで逃げる男はどっからどう見ても今朝の不法侵入体操着泥棒で。
まさか数時間も経ってない内にまた再会するハメになるなんて思ってもいなかっただけに、顔が引きつった。
いや、まだ大丈夫だ。あいつは俺に気付いていない。ここは、下手に絡まれるよりも先にここを離れよう。
なんて考えていた矢先、向かい側を歩いていた俺たちに気付いた泥棒男は満面の笑みを浮かべ、こちらへと走ってくる。いや、そんなはずがない。
……ないよな?
「え、ねえ、道真君、なんかこっちに向かって来てるような気がするんだけど気のせいじゃ」
「気のせいだろ」
「待って待って待って!見捨てないで!助けてお願い!」
そのまま静間の肩を押し、さっさとその場を離れようとした矢先。
あっという間にこちら側へとやってきた泥棒男がしがみついてきた。
重い。そして暑苦しい。やめろ静間が凍りついてる。
「おい、離れ……」
「なんだ、てめえの連れかっ?ああ?!」
離れろ。そう、腰に纏わりついてくる男の髪を掴んで引き剥がそうとした矢先のことだった。
こいつを追い掛けてきたらしい青年は俺たちと同じ学ランに身を包んでいる。
金に近い茶髪に、ぶすぶすと無数のピアスが突き刺さり面積が歪なことになった両耳が見るからにあれなその学生は恐らく三年でなるべく遠巻きに見守っておいた方がいいと有名の力也先輩だろう。
それすら曖昧なのは俺が全く人の顔と名前を覚えられないからだ。
……それよりも。
「いえ、全くの他人なんすけど」
「酷いっ、朝はあんなに優しかったのに!あの時交わした熱い契は全部嘘だったのかよ!」
「朝?契?え?なに、どういうこと?」とざわつく静間。
この人聞きの悪さ。というかそれは暑苦しいわ。
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