一話【パーティー追放。】

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 他のギルドに入るというのも考えた。けれど、駄目だ。俺は、あいつとじゃないと組める気がない。  現実的に考えても、魔王を倒すには強い仲間が必要だ。それを兼ね揃えていたのがあいつだった。あいつは強い。誰よりも聡明で、おまけに人を惹き付ける力がある。  そして周りの奴らもだ。けれど俺にはなんの特技もない。今までこんな俺をパーティーに置いていたのは本当にあいつの温情だったのだ。  考えれば考えるほど情けなくなった。  自分には何もないのだと知らされる。  あいつは戦い続けるのに、俺はただ漠然と生きていけというのか、あいつは。  それこそ、鬼だ。あの日、あのとき、魔物に殺されていた方がまだいい。ぬるま湯に浸かっていられるわけがない。  あいつが俺を見限ったのだとしてもだ、俺は、あいつを憎むことはできなかった。  もう一度、あいつに会って話そう。盗賊たちがいたときは話にならなかった。けど、二人きりになれば昔のあいつに会えるのかも知れない。  夜の風に当てられ、頭を冷やした俺は再び宿屋へと戻る。  宿屋、あいつは俺の部屋を取っていてくれたままだった。部屋に戻るフリをして、俺はあいつの、勇者の泊まる部屋に向かった。  夜は深い。もう眠っているかもしれない。そんな思いで扉を叩く。 「……俺だ。もう一度、話がしたい」  そう、反応のない扉に向かって声を掛ける。これで返事がなかったら、今日は諦めて部屋に戻ろう。そう、思ったとき。ゆっくりと扉が開いた。 「……入れよ」  まだ起きていたようだ。あいつは驚くわけでもなくただこちらを見下ろしたままそう俺を部屋に招き入れた。薄暗い部屋の中、あいつは戦術の本を読んでいたらしい。広くはない部屋には一人用の椅子とベッドくらいしか座れそうな場所はない。ベッドに腰を下ろす勇者。俺は、立ったままやつを見た。 「さっきの件だ。……追放の話がしたくて、きた」 「お前が何言っても俺は変えるつもりはない。お前は、パーティーから外す。これは決定事項だ」 「……っ、わかってる」 「……じゃあ、なんで」 「荷物持ちでも、雑用でもいい……俺を、一緒に連れて行ってくれ。頼む」  恥なんて、なかった。これしかなかった。戦線に立たなくてもいい、それでもいいから、俺を、討伐隊に入れてくれ。冷たい床の上、突然土下座をする俺に流石のあいつも予想しなかったらしい。その目の色が変わる。 「おい……」 「お前らがクエスト受けてる間、武器代や装備代ぐらい稼ぐし、宿代が勿体ないっていうなら俺だけ野宿でもいい。だから、頼むから俺を連れて行ってくれ。邪魔はしない。けど、魔王を倒す手伝いはさせてくれ」 「……っ、お前……」 「そうじゃないと……俺……っなにもないんだ」  あいつだから、あいつだからこそこんなことが言えた。情けないと笑われようが、引かれようが、良かった。こうすることしかできない。俺は魔道士のように頭もよくない。盗賊のように機転も利かないし、騎士のような硬さもない。だから。と、額を床にこすり付ける。あいつがどんな顔をしているのか想像すらできない。 「本気で言ってるのか、お前」  そう、確認するような勇者の声は微かに震えてるようだった。引かれているのだろう。当たり前だ。突然土下座されたら誰だって怖気づく。それでも、なりふり構っていられなかったのだ。 「……っ、頼む、この通りだ」 「……」 「不満も、愚痴も言わねえ。あいつらとももう揉めねえから、頼む……」  泣きそうになるのを堪え、俺は勇者が反応するまで頭を下げ続けた。許しをもらえるまでここを動く気はなかった。目を瞑る。怖い。心臓がうるさい。けど、こうするしかないのだ。 「……わかった」  そんなとき、先に根負けしたのはあいつの方だった。顔を上げたとき、目の前には仁王立ちになったあいつがいた。 「お前がそこまで言うなら、パーティーに残す」 「……っ!ほ、本当か?!」 「ああ。その代わり、戦線からは外す。お前は荷物番だ」 「ああっ、わかった、それでもいい。俺は……」 「それと」  と、伸びてきた手に髪を掴まれる。そのまま後ろ髪に指を絡めるように後頭部を掴まれたとき、目の前にあいつの整った顔が近付いた。 「お前には性処理をしてもらう」 「せ、い、しょり……?」  聞き慣れない単語に、思わず口に出して反芻する。舌打ち混じり、あいつは深い溜息をつき、そして次の瞬間、視界が影に覆われた。 「っ、ふ……ッ!」  柔らかい唇の感触。さらりとした前髪が額に触れる。こそばゆさを覚えるのも束の間、ぬるりとした舌に唇を舐められ、そこで自分がキスをされていることに気付いた。  本来ならば愛し合った者同士がするという、唇と唇のキス。それを、こいつは容易くして退けるのだ。 「おい、なに……ッ?!っ、ん、ぅ……ッ!」  離れようと胸を押し返すが、手首ごと取られ、更に深く角度をつけて唇を重ねられる。ぢゅ、ぢゅる!と音を立て、唇を吸われ、薄皮ごと食う勢いで貪られる。息が苦しい。想像していたキスは、もっと神聖なもので、触れるだけの優しいものだった。けれど、現実はどうだ。  餌を前にした獣のような勢いでこいつに食われてる。 「ん゛っ、ぅ、う゛……ッ!」  文句を言おうと開いた口の中、肉厚な舌を捩じ込まれ、舌の根から先っぽまでをその舌に絡め取られる。濡れた粘膜同士を執拗に重ね合わされ、お互いの唾液が口の中でぐちゅぐちゅに混ぜ合わされるのだ。  まるで違う生き物が口の中にいるかのような気持ち悪さに堪えられず顔を逸らそうとするが、あいつはそれを許さない。何度も顎を捕らえ、後頭部を鷲掴みにし、深く、喉の奥まで舌で愛撫してくるのだ。 「っ、ふ……ぅ……ッ!」  じんじんと痺れていく頭。力の強さは歴然だ。引き離そうとしても、がっちりと固定する手は離れない。息が苦しい。それ以上に、心臓も。何をされてるのか理解できない。脳がそれを拒否するのだ。やめてくれ、そう思うのに、あいつはやめない。ぢゅぽぢゅぽと音を立て出し入れされる舌に口いっぱい犯される。粘膜という粘膜をしゃぶりつくされ、唾液を流し込まれ、飲まされる。受け止めきれなかったどちらのものかすらわからなくなった唾液が垂れ、首筋へと落ちるそれをやつは舌で舐め取るのだ。ようやく唇が離れたにも関わらず、言ってやりたかった文句もなにも頭に出てこなくて、ただ呆然とする俺をやつはベッドへと引きずり落とすのだ。  安いベッドのスプリングが軋む。その上に、あいつは覆いかぶさってくるのだ。 「……お、まえ……っ」 「娼婦くらい、わかるだろう?お前をうちのパーティーに入れる代わり、お前はこういうことを毎晩、俺が命じたときに、いつでもしてもらう」 「お前にそれが耐えられるのか」と、あいつは言う。生地の薄い衣類越し、臍の上の筋肉の筋を指先でなぞられた。理解するにはそれだけで十分だった。
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