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たまに休日が重なっても、私は趣味のアニメ鑑賞と小説の執筆をして、ジェダはどこかに出掛けていて、なかなか時間が合わない。
唯一、時間が合うのは休日の食事時だけ。
ただ、それもジェダと約束した「仕事が休みの日は、一緒に食事をする」があるからで。
私はエンジンをかけると、駐車場から車を出す。
駐車料金を支払い、駐車場を離れる前に、レストランに目をやる。
煌々と明かりが灯るレストランからは、ジェダを中心に盛り上がる女性客の声が聞こえてくる様な気さえした。
私は視線を外すと、自宅に向けて車を走らせたのだった。
「もう潮時なのかな……」
自宅のアパートに車を停めて、部屋に戻って来ると、適当に夕食を済ませて、たっぷりの入浴剤を入れたお風呂に入った。
胸元まで伸ばした髪が乾くまでの間、撮り溜めしていた今季放送中のアニメを観ていると、ふとジェダを思い出して胸が痛んだ。
ジェダと同棲を始めて、もうすぐ三年になろうとしている。
この世界に来たばかりの頃は何も知らず、何も出来なかったジェダも、今ではすっかりここでの生活に馴染んでいた。
車やテレビに驚き、電子レンジを壊し、店頭の人型ロボットを警戒していた。
あの頃のジェダはもう居ない。
それどころか、最近では買い与えたスマートフォンを使いこなして、生まれついての日本人並に流暢に読み書きも出来るようになった。
ゴミ出しや買い出しも積極的にやってくれて、料理や掃除も私よりこなせるようになった。
もう、私なんて居なくていいみたい。
「そっか、それで急に働き始めたんだ」
テレビで流していたアニメは全く頭に入らないまま、気づけば終わっていた。
続きを再生すると、膝を抱えてじっと画面を見つめる。
一緒に暮らし始めて一年が過ぎた頃、突然、ジェダは「仕事をしたいんだ」と言い出した。
どうしても、まとまったお金が欲しいのだと。
手始めに工事現場の日雇いから始めて、コンビニ、スーパー、ファミリーレストラン、遊園地とあちこちで働いた。
数ヶ月前からは今のレストランで働き始めて、そこでたまたまお店の常連客である地方紙の記者の目に留まった。
その地方紙で、イケメン男子特集をするからジェダを載せたいと頼まれて、ジェダも店の売り上げに貢献出来るならと承諾した。
その結果、ジェダはレストランの看板ウェイターとなって、今のすれ違いの日々になったのだった。
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