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(きっと、この家を出て行きたいんだ。それで急に働きだして……)
まとまったお金が欲しいと言った時、「私が出そうか?」と提案した。
そうしたら、ジェダは丁重に断ってきた。
ジェダが欲しいという、まとまったお金。
それはこのアパートを出て、一人暮らしをしていく為の資金なのだろう。
(出会ったばかりの頃は、ワンコの様に懐いてくれたのに……)
どこに行くにもついて来て、なんでも聞いてきて、見るもの聞くもの触れるもの、何もかもに興味津々だった。
子犬みたいだった彼も、いつの間にか成犬に成長していた。
それが嬉しいような、悲しいような。
自分を置いて、どんどん先に行かれてしまった様な、そんな寂しい気持ち。
(駄目だ。悪い想像ばかりしちゃう。もう寝よう)
スマートフォンを見ると、とうに日付は変わっていた。
私はテレビを消すと自室に戻った。
十一月に入ってから、暖房がない自室は急激に寒くなった。
私はベットに入ると、すぐに眠りについたのだった。
次に目を覚ますと、すでに外は明るくなっていた。
仕事がない休日なのをいい事に寝過ぎたかと、枕元の目覚まし時計を確認する。まだまだ朝の時間帯だった。
私は起き上がると、大きな欠伸をした。
(昨日より頭もスッキリしてるし、今日なら書けそう)
ベット近くのテーブルの上には、パソコンと付箋が沢山貼られたキャンパスノートが置かれている。
私が趣味で書いているオリジナル小説の執筆に使用しているパソコンと、物語のネタをまとめたノート。
最近は思うような文章が書けなくて、そのままになっていた。
でも今日なら、続きを書ける様な気がしたのだった。
(朝ご飯を食べたら書こう)
私はスマートフォンを持つと、部屋を出ようとした。
扉を少し開けたところで、部屋の前に真っ白な毛玉が落ちているのに気づいた。
「小雪」
扉の音に驚いたのか、この部屋のもうひとりの住民である真っ白な毛玉ーーの様に見えた真っ白な毛の猫は、テレビの前まで逃げて行ったのだった。
「昨日から姿が見えないと思ったら……。今までどこにいたの?」
「俺の部屋に居たよ」
隣から、人気男性声優並の美声が聞こえてきて振り返る。
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