すれ違う日々

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「正確には、俺の布団で寝てたんだけど」  仙斎茶(せんさいちゃ)という黒に近い茶色に染めた今風の短髪に、少し長めの前髪。  垂れ目気味の焦茶色の瞳の青年は、可愛らしい熊のイラストが書かれたエプロン姿で、そこに居たのだった。 「ジェダ……」 「おはよう、コト。今週はずっと会えなくてごめんね」  待ち合わせに来なかった同棲相手は、申し訳なさそうな顔をして謝ってきたのだった。 「いつ帰って来たの? 私が寝る時は、まだ帰って来ていなかったよね?」 「明け方近くかな。最後に入店したお客様が、なかなか帰ってくれなくて……。  それから片付けと今日の分の仕込みをしていたら、電車の終電にも間に合わなかった。それで、始発まで店長の家に泊らせて貰ったんだ」 「タクシーを呼ばなかったの?」 「タクシー? ああ、バスみたいにお金を払うと乗せてくれる車だっけ。そうか、タクシーで帰ってくれば良かったのか……」  頭を掻くジェダに何と返そうか考えていると、小雪が小さく鳴いた。 「そうだ。小雪の餌……」 「それは俺がやっておいた。 今は俺たちの朝食を作っていたところ」 「明け方に帰って来たんでしょう? まだ寝足りないんじゃない?」 「店長の家で寝たから大丈夫。それに、あっちの世界じゃ、仕事で寝れない日もあったから」 「そう……」 「それより、顔を洗って着替えておいで。もう少しで朝食が出来るから」  ジェダの言葉に甘えて、洗面所で顔を洗うと、一度部屋に戻って、部屋着に着替える。  着替え終わった頃には、テーブルには朝食が並び、サラダを狙う小雪をジェダが追い払っていたのだった。 「お待たせ」 「じゃあ冷めない内に食べようか。今、コーヒーを淹れてくる」  コーヒーを淹れにジェダが台所に向かうと、小雪はまたテレビの前に戻って、真っ白な毛玉の様になっていた。  小雪は元々野良猫だったが、越して来たばかりの私が遊び相手になっている内に、いつの間にか我が家の住民となっていた猫だった。  後から住み始めたジェダにも可愛がられて、今ではすっかり家猫と化していた。 「そういえば」  二人分のコーヒーを淹れて戻って来たジェダは、思い出した様に話しかけてくる。 「今年は行かないの? その、なんだっけ……あの本や絵を売るイベント……」 「コミケ?」 「そう、それ。今年は行かないの? その日は休みを取ったけど……」 「うん。今年は行かない。申し込まなかった。だって、どうせ売れないから……」 「コト……」
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