30人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
約束の日
ジェダと約束の日。
夕食を済ませて、テレビで撮り溜めしていたアニメを観ていると、ジェダが隣に座ってきた。
「コト。話があるんだ」
「何?」
テレビの音量を低くすると、ジェダに向き直る。
いつになく、緊張の様子を見せるジェダに私まで緊張してくる。
「実は……今、働いているレストランで、正社員にならないかと言われて」
「そっか」
「正社員になれば、給料も上がって、給仕以外に事務仕事もさせてもらえる。今以上に忙しくなるけど、それでもよければって。
この間、店長の家に泊まった時に提案されたんだ」
改めて言われなくてもわかっている。
ジェダの答えは、いつだって「いいえ」だ。
これまでも、ジェダはあちこちでアルバイトをする度に、正社員に誘われていた。
けれども、ジェダはいつか元の世界に帰る身であり、そもそもこの世界での身分証が存在しない。
正社員になれば手続きの過程で、ジェダの身分証がない事がバレてしまうだろう。
それもあって、これまでジェダは正社員の話を断り続けてきた。
断る度にそこで働き辛くなって、いつも辞めざるを得なくなった。
「それで、何て返事をしたの?」
「その話を受けますって。昨日、言ってきた」
「えっ!?」
どうせ断ったのだろうと、リモコンに手を伸ばしたところで、意外な回答に驚愕して隣を振り向く。
「急にどうしたの? だって、今までは正社員の話を断ってきたじゃない!? いつか元の世界に帰るからって……」
「これまではね。でも、今はそうじゃないから……。好きな人が出来たんだ」
「好きな人? そうなんだ……」
私は何を落胆しているんだろう。
三年も暮らしていれば、ジェダに好きな人が出来てもおかしくない。
私たちは一時的に同棲をしているだけ。いつか、ジェダはここを出て行く。
わかっていた事なのに……。
「それで、急に働き始めたんだね」
「この世界に来てから、その人に頼ってばかりだった。そろそろ、頼ってばかりいないで、自力するべきだと思ったんだ。プレゼントしたい物もあったから」
「そっか。想いが伝わるといいね」
「ありがとう。コトには最初に話しておきたくて。それで、ここからが本題」
ジェダが背中に手を回して、何かを取り出そうとしている間に、私はテレビを消してしまう。
「コト」
最初のコメントを投稿しよう!