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いや、止まった。ボウルの縁までは、まだ余裕がある。
男は無難な位置にあるオリーブの実を見定めて、四つ取った。一つ取るたびにマドラーを凝視した。角度がほんの一度でも変わっていないかと。客の誰かが甲高いクスクス笑いを漏らした。
「おしまい? 四つでいいのね?」
確認の言葉に男はうなずいた。コップの残りを飲み乾した。
「そう。じゃあそろそろ決めさせてもらうわよ」
女は身を乗り出した。ガラスのわずかな凹凸を見定めて、マドラーを支えている実に当たりをつけると、無造作にも見える手つきでオリーブを取り除いていった。マドラーは傾きもしない。女の手は休まることなく動き続け、十二個のオリーブが取り皿に移った。十三個目に指が触れたところでマドラーがわずかに振動して、そこでやっと女は手番を終えた。
ボウルに残ったオリーブは十もない。
マドラーはかろうじて立っている。
男の全身から汗が噴き出した
女の唇に勝利を確信した笑みが浮かんだ。
「どうしたの? あなたの番よ。急いで取らないと、おしまいよ」
腕時計が時を刻んでいる。秒針の動く音がはっきりと聞こえた。
男はオリーブの一つに指を置いて、少しだけ動かした。
マドラーに反応があった。
別のオリーブに指を置き換える。
やはり、マドラーがわずかに震える。
残り時間は30秒もない。視界に入るすべてのオリーブを確認したが、マドラーが動かないものはどこにもなかった。
「チクタク」女が時計の秒針に合わせて「チクタク」楽しそうにつぶやく。
男の指が一つのオリーブを選び、そしてゆっくりと――
ドアが乱暴に開かれた。
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