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憧れの如月マリアから話しかけられた喜びと、道に迷ってる情けない状況が入り混じって、しどろもどろになってしまう。
「はい…、収録スタジオがどこだったか、分からなくなって…」
「ここ、道が複雑で分かりにくいですよね。もしよかったら、ご案内しましょうか?」
あの如月マリアが手を差し伸べてくれる。そうだ、まだ尻もちをついたままだった。顔を赤くしながら、折れてしまいそうなほど華奢な腕につかまり、ひっぱり上げてもらった。
こんなチャンス、二度とないかもしれない。肩を並べて歩きながら、おそるおそる話しかけてみた。
「あの、今から音楽番組の収録ですか?」
「ええ。『ミュージック・タイム』の収録なんです。感染症対策でリハーサルもままらないし、なかなか無観客に慣れないし、戸惑うことばっかりですよね」
困ったように微笑んだ彼女を見て、心が沈んだ。いちおう、私も如月マリアと同じ『歌手』のはずなのに。私と如月マリアでは、どうしてこうも、なにからなにまで違うんだろう。
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