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落ち込んだ気分のまま、テレビ局の廊下をふらふら歩いていたら、経済番組の収録スタジオに迷い込んでしまった。
アクリル板に仕切られた席に、大学教授やコメンテーターたちが座っている。なかなか終息しない感染症問題について討論中だ。政府の対応のまずさを一つひとつ指摘し、いらだちをぶつけている。
「君、『政治激論』の収録中だ。出て行きなさい!」
ディレクターに怒鳴られてびくっとした私は、反射的に逃げ出してしまった。誰もいないところまで来てから、はた、と足を止めた。そういえば、ここ、どこだろう?
(どうしよう、道に迷っちゃった…)
テレビ局って迷路みたい。さっきまでいたはずのセレアイバラエティの収録スタジオがどこだったのか、ぜんっぜん分からない。途方に暮れながら歩いていると、廊下の曲がり角で誰かとぶつかった。
「痛っ!」
ぶつかった拍子にバランスを崩し、尻もちをついてしまった。なんなの、今日は。悪い事しか起きない。踏んだり蹴ったりっていうか、厄日だ。
「ごめんなさい。あ、あの、だいじょうぶですか……?」
あわてた女性の声が聞こえた。マスク越しでこもっているが、それでもとってもきれいな声だ。顔を上げて、びっくりして固まってしまった。
「あ、え、嘘……!」
背の高い、髪の長い女性。
マスクをつけていても分かる。彼女が誰なのか。
私の憧れの歌手、如月マリアだ。
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