冷たい彼女

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 待ち合わせの駅に行く。二葉が立っていた。相変わらず制服だ。穏やかな顔をしている。 「見送りに来たの。楽しんで来てよ。私、もう現れないようにするから」 「それは成仏するってこと?」 「うん。色々考えたけど、そうするよりないと思う」  二葉はそう言って段々薄くなった。五分も経つと完全に消えた。気が付くと弥生が来ていた。濃い赤色のダッフルコートの下から厚手の生地でできている小花柄のスカートが見える。弥生は言った。 「今、二葉がいた?」 「ああ、ずっと、この世に居たんだ。墓場でホラー小説を読みたいなんてふざけてたけど、本当は悲しかったんだな。この前泣いてたの見たよ。でも弥生とのこと応援してくれるみたいだ。今度二人でお墓参りに行こう」  弥生は頷いた。 「後でホラー小説と今日行くバンドのCD、あと花束を持って行こう」 「そうだな。あの世で本を読んで音楽を聴いて。二葉には先に待っててもらう。僕はあと六十年は生きるけど」  和志はそう言って駅の階段を降りた。弥生もついて来た。外に出ると空は青く澄み渡っていて天国に行くのにはいい日だった。 「見て、あの雲、鳥みたい」 「ああ、二葉はあれに乗ってるのかもしれないな」  弥生は涙を落とした。そして空に向かって手を振った。和志はそんな弥生が可愛いと思った。二葉が許してくれたのだから今日は弥生とライブを楽しんで来よう。そう思うと心が空のように晴れた。   終わり  
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