胡蝶蘭さん

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俺はヤマト。 人生にターニングポイントというものがあるとするならば、俺のターニングポイントは、間違いなくあの日だと思う。 そう、あれは俺が中学一年生の時の、やたらと蒸し暑い夏の日のことだった。その日俺は、友人たちから小国町の教会の話を聞いたのだ。 小学校の学区が違うから、その日まで知らなかったのだけど、意外とうちから近い場所に、それはあった。 何でもその教会で不幸な事件が相次いで起きたことで、教会を別の場所に移転したらしいのだが、問題は残されたその跡地だ。 すぐに売りに出され、買い手がついたのだが、新しい持ち主がその教会を解体する為の工事を始めた途端、事故で亡くなってしまったとかで、工事が中断した。 さらに次の持ち主も、同じようなことになり、更に次も……となった時点で、誰もその教会跡を買う物は現れず、持ち主が誰かも分からないまま今に至っているらしい。 そして、前々からホラーやミステリーが大好物の俺は、その教会跡が気になってそこに足を運んでみたのだ。 あの日……興味本位で、あそこに行かなかったなら……俺は……。 ―― ミーン。ミンミンミーン。 時刻は午後四時。蝉の鳴き声が、益々蒸し暑さを助長する。 一度帰宅をしたものの、今日友達から聞いた教会跡のことが気になった俺は、懐中電灯を持ってここに訪れた。 目の前の曰く付きの建物を目の当たりにし、思わずツバを飲む。周囲の雑草は伸び放題だけど、建物自体は思った程ボロボロではなかった。 こういう廃墟化した建物は、肝試しに使われがちで、ガラスが割られていたり、落書きがされていたりしそうなものだが、そういう感じでもない。 山の中の一軒家ではなく、周囲が住宅街だから、そういう(やから)が騒ぎづらいというのもあるのだろう。 俺は意を決して、教会のドアに手をかけた。 こういう建物は、カギがかかっているに違いないと思いつつだったが、意外にもカギはかかっておらず、錆びついていて堅いドアは、ギィイイーーーーという不快な音をたてながら、建物の奥に向かって開いた。 続きます。
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