胡蝶蘭さん

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もう、ドアの開く音だけで、逃げ出してしまいたいくらいドキドキしたが、ここまでで逃げ出したら、来た意味がない。俺は勇気を振り絞って中に足を踏み入れた。 電気が無いので薄暗く、俺は懐中電灯をポケットから取り出すと、スイッチを入れて周囲を照らす。 そこは風除室のような部屋で、正面に大きなドアがあった。 ――ゾクッ。 背筋に冷たいものが……。引き返すなら今だ。 そう思う。そう思うのに……。 俺は懐中電灯を照らしながら、奥へと進み、正面のドアを開いて中を覗く。 そこは真っ暗な空間だった。 俺はキリスト教徒ではないから、礼拝の経験も教会に来たこともなかったけど、中は想像していたよりも広くて、テレビや映画で見たことがあるように、中央に通路があって、その両側に長椅子が並べてあった。 中央の通路の先には、祭壇が見える。埃とカビの匂いが鼻について、とっさにTシャツの袖口で鼻を塞いだ。 どうする? もう帰るか? でも、中を覗いて見ただけで、何もしていない。 勇気を振り絞って奥の祭壇に向かって歩き始めた。祭壇のすぐ近くまで来たとき、照らしている懐中電灯の光に、何かが反射してキラリと光る。 「何だ?」 俺はそれを注視した。 「何だこれ?」 それは五センチほどの黄色い石だ。手に取って懐中電灯を当ててみると、キラキラと透き通り、宝石のように美しい。これを持って帰って、友達に見せてやろう。 俺はそう思って、その石をポケットに入れた。 ――バタン! 突然大きな音がして振り返ると、開けっ放していたはずのドアが閉まっている。 「マジか!」 俺は焦ってドアに向かった。誰かが閉めたと思う不安を掻き消すように、心の中で「風だ。風の仕業だ」そう叫び続けた。 ドアまで辿り着き、把手に手をかけて引いてみるが、ドアはビクとも動かない。 心臓がバクバクと大きな鼓動を打ち始める。 落ち着け。分かった。押すんだ。引くドアじゃなくて、押す……。 ドアはビクともしない。 ――ゾクッ! 背後に冷たいモノを感じた。 続きます。
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