いすみ静江さん

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いすみ静江さん Eカップ湯けむり美人ひなぎくのアトリエぱにぱに! 葛西竜哉の書き出しバージョン。  女の子の証拠ともいえる、ばいんぼいんを揺さぶりながら、モンローウォークで歩く美女。  その名は白咲ひなぎく……!  バーンと、七十億ポーズをキレッキレに決めた。 ――ようにH(えっちー)黒樹(くろき)(ゆう)の目には映っているのだが、実際のひなぎくはというと、決してそういったことはなく、立ち居振る舞いの物腰は柔らかく、そして優雅だ。 「プロフェッサー黒樹、お茶にしましょう」  黒樹を見る黒ぶちメガネの奥には、吸い込まれてしまいそうな黒い瞳。そして日本人らしくて美しく長い髪を、高く結びあげている。  ビビッドな赤のスーツにキリっとしたタイトスカートで、首にはノンブランドの赤いスカーフを、チョーカー風にして着こなしていた。  ボンッキュッボンの、お手本のようなそのスタイルは、観光客にじろじろと見られがちなのが悩みの種でもある。 一方の黒樹は、まるい瞳をまるい銀ぶちメガネから覗かせ、小さなお口に口髭をツンツンさせて、細くて白いストライプ入りの、グレーのスーツをスマートなスタイルで着こなしているので、黙っていれば一見紳士だ。  ひなぎくは二人分の白と黒のマグカップを、コトリと『アトリエデイジー』の休憩コーナーにある、ウッドテーブルに置いた。  午後のおやつ時に、黒樹がいつも甘いものを欲しがるのだ。 「プロフェッサー黒樹。私が国費留学で、パリのアール大学大学院にいた頃のことを、覚えていますか?」  ひなぎくはオレンジ色を多用した、ステンドグラスにはめ込んだ窓ガラスに向かい、外の景色を眺めた。  日差しの映える山間の、二荒神温泉郷(ふたらしんおんせんきょう)は美しい。このアトリエも紅葉の頃には、再び沢山の人を潤すだろう。 「おお、ひなぎくちゃん。大好物のカフェオレイン、マックスお砂糖サンクスな。パリー? ああ、もちろんよく覚えているよ。ぴっちぴちだったよなぁ、あの頃のひなぎくちゃんは」 ひなぎくは、ぴっちぴちと、あの頃、が気になったが、ニコリと微笑んで流した。 それよりも今、ドキドキしているのは、さっきからずっとツンツンと当たって来る、プロフェッサーの視線だ。 ポニーテールのうなじを見られているのは、いつも感じていた。 一方の黒樹は、得意の妄想モードに入る。 ひなぎくはEカップでぴっちぴちに決めていて、大好きなビキニ、出来れば白! ところが、まだ見せてくれなくて残念至極。 顔は好みなんだよな。 いつも眼鏡で隠れているが、くりくりとよく動く瞳に流れる髪。 うーむ、眼福、眼福。 黒樹は甘いカフェオレインマックスお砂糖を、スプーンでくるくると混ぜた。 「そういえば、今月誕生日だね?」 「ええ、五月十五日が私の誕生日です。覚えてくださっていて有難うございます。って、プロフェッサー黒樹は、翌日の十六日ですものね」 ひなぎくはペコリとお辞儀をして、今の気分、ビターなコーヒーをコクリと飲んだ。 こんな風に大抵はまったりなので、黒樹は今一つからかい甲斐がないと感じているのだが、ワンピースを着ていれば、それがダックスフンドの女の子でも、話すのを止められない性質(たち)なのだから、如何(いかん)ともしがたい。 「そうか……。あのパリーの頃にぴっちぴちだった、ひなぎくちゃんももう二十九歳になるのかいな」 「あら、それを言ったら、かれこれお付き合いも長いプロフェッサー黒樹は、おじさま推定年齢四十六歳になられるのではないですか?」 ひなぎくに言い返されて、黒樹はしみじみと思った。 昨年とは一つ違う壁を越えてしまったことを……。 恐らくそれは、アラフォーと誤魔化していたのと、アラフィフが決定したことの違いってヤツだ。 「むむむ……。アラフィフ入りたてだもの、ハゲはないもの。薄いだけだもの」 「ごめんなさい。いじけないで」  ひなぎくはからかってしまったようで申し訳なかったと眉を寄せて謝りつつ、小声で、ハゲてないわと呪文を唱えた。 「ところでプロフェッサー黒樹。例の怪盗からの、青いバラの予告状が『ピカソ』の前に置いてありました」 ひなぎくは先ほど撮って来たばかりの証拠写真を、スマートフォンで見せる。 「またか。大損害はごめん(こうむ)るぞ」  黒木が(いぶか)しんだ。 「困りましたねぇ……」 ひなぎくと黒樹は、二人の大切な『アトリエデイジー』で、ある懸念事を抱えていた。 それは怪盗ブルーローズ。 こんな感じです。いかがでしょうか?(*´ω`*)
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