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仕事で移動中の車から、人ひとりいない熱で溶けそうなアスファルトを見る。
「あれ?」「あっ」
運転席と助手席から同時に声が聞こえた。
「なんだ?」
「あの髪。あの子だよね」「そうですね。自転車の彼女ですね」
自転車の彼女と聞いて、身体を起こしてフロントガラスを見る。
彼女だ。いつも自転車で色素の薄いサラサラの長い髪を靡かせ
マスクをしていても透明な美しさを隠せていない女。
半年ほど前から、俺が彼女を気になっていることに気づいた前の二人は
彼女の事を‘自転車の彼女’と呼ぶ。
声を掛ければいいと、二人には数えきれないくらい言われているが
あの透明な白い美しさを濁らせてしまうようで出来ない。
その女がこの炎天下をゆっくり歩いているが、ほぼ進んでない。
「危ないな…乗せる」
そう言うと、車は彼女を追い越しそうな位置で止まった。
ちょうど俺の開ける後部座席ドアの真横に彼女がいる。
ドアに手を掛けると彼女が目を閉じたのが見えた。ヤバい。
「大丈夫か?」
答えはなく、汗だくの彼女が腕に落ちてきた。
中田暁仁 30歳 職業…グレーゾーン
予期せぬ状況で彼女に触れてしまった。
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