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「歯を磨いてからいくのよ、リュウ」ママも食パンをしぶしぶ口に入れている。ママは政府直轄の工場で作った食パンが嫌いなのだ。
「このパンって、だって、ザキヤマパンの味がするのよ? わたしはパスキのパンしか食べられないのに」と云う。
これも仕方ないらしい。もう、パン会社が味や製造方法で消費者を獲得していた時代ではないらしい。パン工場では、政府から注文を受けた数のパンを作り、そしてそれをセンターを通じて各家庭に配給するのだ。きっちりと人数にあった枚数分だけ。
コロナの前に2年生の時にパン工場へ社会科見学にいったけど、いろいろな菓子パンがおいしそうだったな。渦巻の形やクリームをサンドにしたものや、甘いにおいがいっぱいの工場だった。
いまは、菓子パンなんてない。菓子パンどころかお菓子もない。
人の身体にお菓子はいらないらしい。
必要な栄養素をすべて満たしている今の献立を食べていれば、だれもが健康になれる、と政府はいうのだ。
コロナがこんなに大変なのに、そのほかの生活習慣病になったら困る、ということだって。
「メタボなんて死語になるんだろうな」とパパは云う。
ほんとうはラーメンを食べたいらしいけど、ね。
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