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悲しい気持ちで主人の後をついてゆくと、屋敷の中に入り、応接室の前まで連れていかれた。暖炉の灰を掃除する時にしか入ってはいけない部屋だ。
「連れてまいりました。フランシス・セーデン。歳は十五です」
入口でマットソンが中の人物に声をかける。
「オメガなのだな?」
「はい。『血の試し』を受けています」
「ヒートは始まっているな?」
「はい。あの……、その……」
まだです、とマットソンは小声で呟いた。「どうなんだ」と声が聞こえて「まだです」と、もう一度答える。
「十五で、ヒートがないというのは……。確かにオメガなのだろうな」
疑わしそうな声が聞こえた。マットソンはそわそわと視線を彷徨わせる。
しかし、すぐに「まあいい。とにかく入れ」と声が続き、マットソンに促されて、フランも部屋に足を踏み入れた。
応接室の中央で、見たこともないような立派な服を着た壮年の男が長椅子に腰を下ろしていた。
「宰相のカルネウス様だ」
「こ、こんにちは……」
おずおずと頭を下げると「ずいぶん小さいな」とカルネウスが呟いた。後ろに控えていた部下らしき男が蔑むようににやりと笑う。
フランはうつむいた。
オメガである点を差し引いても、フランは小柄で、よくて十一、二歳にしか見えない。
チビでドジで半人前の厄介者。
おまけにオメガ。
働かせてもらえるだけでありがたいと思えと、毎日のように親方にののしられ、小突き回されている。
「あの……」
いったい自分はどんな粗相をしてしまったのかと、フランは気が気ではなかった。食事抜きなどでは済まないような、大きな失敗をしたのだろうか。
心当たりがないことが不安に拍車をかけた。知らずにしてしまった失敗というのは、思いのほか大事になるものだ。
「適齢期のオメガで、金髪。確かに『導きの石』が示した条件は満たしているが……」
眉間に皺を寄せたカルネウスに、マットソンが揉み手で進言する。
「朔まで日もありませんし、とりあえず、この者で間に合わせておくというのは……」
「ううむ……」
いかにも不満そうにフランを眺めた後で、カルネウスはしぶしぶといった様子で頷いた。
「一時間後に迎えに来る。身体を洗って、もう少しましな格好をさせておけ」
「では……」
「時間がない。その者を貰い受けよう」
「ありがとうございます!」
マットソンの顔がぱっと輝いた。だが、カルネウスが冷ややかに続ける。
「褒美は、ステファン様がその者を気に入ってからだ」
マットソンはあからさまに肩を落とし、諦めたような目でフランを見下ろした。
「気に入られるはずがない……」
口の中でそう呟いて、大きなため息を吐いた。
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