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都市伝説①
「同じようなメールが曽根さんにも届いたと言う事ですか?」
杉本さんは頷いた。オカルトアイドルをしているのなら、同業者の嫌がらせやストーカー的なファン、または彼女の活動をよく思わないアンチが彼女の性格を知っていて、悪戯目的で送ってきている可能性もある。
ばぁちゃんが、幸せそうに苺パフェをぱくつく様子を眺めながら僕は珈琲を飲んだ。
「そうなんです。曽根は何故か……軽率にそのWEBサイトにアクセスしました。そこから……、二週間前になるんですが、挙動がおかしくなり始めたんです。曽根にも少し霊感があるそうですが、わけのわからない事を口走ったり、撮影現場でも霊が視えると叫んだり、遅刻が多くなったり」
「あいらさん、あの自殺配信者の噂を聞いてから余計に滅入っちゃったの。あの人の動画には悪霊が映ってるって言う事で騒がれたから、信憑性が増したんだよ」
もともと感受性の強い曽根さんが、悪意のあるサイトにアクセスし、偶然同じWEBサイトを見ただろうと噂になっていた女性の自殺配信動画に霊が映っていた。
そんなものを見聞きすれば、精神的に参ってしまってもおかしくない。
「失礼ですけど、曽根さんは心療内科を受診されたりはしなかったんですか」
「助言はしたんですが、聞き入れなくて……引きこもってしまったんです。私も、雨宮さんを前にしてこんな事を言うのはなんですが、心霊やオカルトには懐疑的な目で見ていまして……ですが、もし雨宮さんに視て貰って大丈夫だとわかれば、本人も納得するのではと思っているんです」
杉本さんは、心霊現象やオカルトを信じていないようであくまで芸能ビジネスとして考えているんだろう。
売出し中のアイドルが、大事な時期に精神的な問題で芸能活動を休止するとなると、憶測でおかしな噂が立てられてしまうのではと心配しているようだった。
それでも、僕は精神的な事が問題ならゆっくり静養すればいいと思うけど。
『しかし、本人が来られないんじゃ仕方ないねぇ。健の方から曽根さんを訪ねるか、その呪いのWEBサイトを霊視するしかないよ』
ばぁちゃんの言う通り、ここに本人が居れば解決は早いが、どうも外に出られるような精神状態ではないようだ。となると、真意を確かめる為に、ばぁちゃんの助言通りにそのWEBサイトを霊視した方が早い。
「――――分かりました。杉本さん、琉花さん。そのURLをいただけますか。霊視してみようと思います」
「ちょ、ちょっと! 琉花は見ないからね! 本当に呪いのHPとかに繋がったら嫌だし……琉花の守護霊が、呪いを跳ね返せるか心配だもん」
「私と健くんで見てみるよ。私のノートパソコンのアドレスに送ってもらえますか、杉本さん」
すでに二回も修羅場をくぐってきた梨子は怯える様子も無く、杉本さんにアドレスを教えていた。
まぁ、本音を言えば最近巻き込まれた心霊事件は命を脅かすような大変なものだったし、僕も半信半疑なので高を括っているような所はある。
「曽根から転送されたメールを送りますね。僕も、実を言うとこのURLにはアクセスしていなくて……。ウィルスサイトと言う噂は無いのですが危険性のあるサイトを不用意に触りたくないですから」
「物理的に危険なサイトなら、別の意味で騒がれてそうだと思うので、大丈夫だと思います。あ、メール来たよ、健くん」
僕は頷くと、杉本さんから送られてきた曽根さんの転送メールを開いた。件名には『闇からの囁き』とあり、本文には『お前は、必ず見なければいけない。雑巾女より』と書かれていた。
先程の話では、差出人の名前についての話題は登らなかったが、いかにもSNSでありそうなハンドルネームといった感じだ。
「それじゃ、梨子……開くよ」
「うん、心の準備は出来てるからいつでもいいよ、健くん」
URLをクリックしたが『エラーが発生しました』と言うメッセージが書かれた白い画面のままだ。リンク切れか、アクセスを拒否されているのかサーバーが落ちているのかわからないが、僕と梨子は途方に暮れて、思わず顔を見合わせてしまった。
WEBサイトが閲覧出来なければ、怪異を霊視をする事も出来ない。まるで、探られる事を拒否されたかのような不気味さを感じたが、違和感を抑えながら僕は冷静に言った。
「杉本さん、このサイトには繫がらないみたいです。もしかすると、期間限定で公開されていたのかも知れません。だから僕には確かな事は言えないんですが……、自殺した女性と同じURLを貼られていて見たとしても、アクセスした人が呪われるとは限らないと思います。
その方は、動画で検証してたんですよね? もし繋がっていて、ネットを通して沢山の人が見てたなら、同じ現象が起こりそうですし」
「それなら、もっと噂になってるよね……うーん。もしかして曽根さんは別の霊障なんじゃない、健くん」
その可能性もあるし、浮き沈みの激しい芸能界なので、精神的に参っているのかもしれない。
だが、僕はなんだか小さな違和感と言うべきか、嫌な予感がして鞄からお守りを取り出した。
「琉花さん、このお守りを渡してあげて欲しい。僕の実家の神社の札なんだけど、あると安心できると思うよ。もし心配なら何時でも僕に連絡くれるように言ってくれないかな? こっちにいる間なら直接霊視できるし」
僕は彼女に渡すと、曽根さんにラインの番号を教えてあげるように頼んだ。
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