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都市伝説②
杉本さんの方から事情を話して貰い、僕はとりあえず彼女のラインを登録する事に成功した。だが、挨拶のメッセージを入れても既読になるだけで彼女からの返事はない。
琉花さんは進展が無い事に不満そうだったが、とりあえず彼女も仕事があると言う事で僕達を置いて杉本さんと出ていった。
『なんだか嫌だねぇ、昔に流行った不幸の手紙みたいで』
「ばぁちゃんが、不幸の手紙みたいだって。そう言えば小学生の流行ったな、あの時はチェーンメールだったけど」
「そう言う映画があったから、真似して悪戯してる人もいるかも知れないね。ねぇ、健くん……、ちょっと私の部屋に来ない?」
「えっ、へ、部屋に?」
突然の誘いに僕は顔が熱くなるのを感じた。
今までラインや、電話で話をしていたが部屋に誘われたのは初めてだ。もちろん、絶対にいかがわしい事をする気持ちはないのだけど、一気に緊張してしまう。
高校の時に一度、試験勉強で彼女の家に行った事はあるが、リビングだったし梨子の部屋には入った事はない。
「うん、実は……さっき話してた、会社員の人の配信動画を見てみない? なんだか気になって仕方ないんだけど、ここじゃ見れないし。一人だとやっぱり怖いの」
「あ、う、うん。それじゃあ……ここからだと梨子のマンションの方が近いし、送ってくついでに見よう」
僕も、実のところ霊視が出来なかったせいか消化不良を起こしていた。
検証にしろ自殺配信にしろ悪趣味なものだし、遊び半分で見て良いものではないが、梨子もそれはきちんと理解していてるはずだ。
ただ僕と同じように、何か喉の奥に引っかかるような、気持ちの悪い違和感を感じているんだと思う。
そして僕の感は悲しいかな、嫌な予感ほど良く当たるのだ。
✤✤✤
梨子のマンションは六階建てで、駅からは少し遠いが、比較的綺麗なオートロックマンションで女子大生の一人暮らしでも安心できる場所だった。
初めて入る梨子の部屋は、七畳ほどの広さで、シンプルにお洒落な部屋だった。アクセントにちょっとした可愛い家具やぬいぐるみが置いていて、趣味の良い部屋だ。
「健くん、コーヒーでいい?」
「あ、ありがとう。それにしても、そう言う動画って残っているものなのかな?」
女の子の部屋に初めて入った緊張を紛らわせる為に、僕は動画の話をした。自殺配信なんてしてしまったら運営がアカウントをすぐに凍結するか、遺族が停止を要求しそうだけど。
「うん、そうなんだけど……、そういう動画だけを切り取って他のアカウントがアップさせたりしてるみたいなの。『闇からの囁き』に関連付けされてたから、動画を流さないまでも、色んなオカルトチャンネルが取り上げてたみたい」
「え、そんなに沢山チャンネルがあるの? そんな物好きは、祐二だけかと思ってた」
可愛いマグカップで淹れて貰ったコーヒーを飲むと、僕は苦笑する。中山裕二は僕達の級友で心霊スポットに行き、大変な目にあったやつだ。それが僕にとってこの様々な奇妙な心霊事件に巻き込まれる事となったきっかけでもある。
梨子がパソコンを立ち上げると、動画サイトにアクセスして検索を始める。
――――いくつか関連する動画が現れた。
「梨子、その……☆閲覧注意『闇からの囁き』を見せて。それが気になるんだ」
「うん、これだね……? これは元の動画を切り取ってるみたいだね。もう彼女のアカウントは停止されているみたいだから」
案の定、彼女のアカウントは停止しているようだ。運営側なのか家族が削除したのかはわからないが、おもしろ半分に動画を切り取って勝手な考察をする人達がいることを哀れに思えた。
僕は額に神経を集中させつつ『闇からの囁き』をクリックする。
✤✤✤
『どうも! みんなこんにちはー! こんばんはかな? sakuraです。今日は前回の動画でお知らせしていたようにー、あのメールの検証をやっていきたいと思います』
僕よりも少し上だろうか、メイクもバッチリ決めた彼女は楽しそうに笑顔で画面に向かって手を振っていた。
動画配信者に対して疎い僕は、よくわからないけど、おそらく自分の部屋から配信しているようだ。内容から言ってもやはり彼女にURL付きのメールが届いたのだろう。
彼女の顔の隣には、コメントのようなものが流れていて、梨子いわく生配信だという。
『こんにちはー、新規さんもよろしくです。うん、そうそう。なんかオカルト掲示板? で有名なやつみたい。ウィルス? 大丈夫だよ~~実は新しいパソコン買ってね。この古いのはいつ壊れてもいいやつだから……感染したらそれはそれで面白いじゃんね』
配信者の中には、芸能人のように事務所やマネージャーがついている人もいるようだが、どちらかと言うと彼女はそうではなくて、視聴者と距離の近い、個人のアットホームな配信のようだった。
『宛先人はね、雑巾女だって……。なんか聞いたことあるけど、気持ち悪い感じ。ちなみに私は幽霊いるかも知れないけどあんまり信じてない。って言うか怖いから信じたくない。だーかーらー、今日はみんなと一緒に見ようかなって思ってるの』
このチャンネルの配信者sakuraこと、亡くなった、都内のデザイン会社に務めていた坂裏さくらさんはそう言うと、コンビニの袋をガサゴソと取り出しポッキーを開けた。コメントを読みながらポリポリと食べ始める。
一人暮らしの部屋なのか、背後には時計が置かれていて時間は午前二時を表示していた。ちょうど丑三つ時だ。
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