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「さて。残りは久谷さん、鳥羽くん、佐武くん、江守くん。──そうだね。ここで第三の事件に存在した青いフードの人物Xについて触れようか」
「お前のことかよ、探偵?」
山里の挑発を無視し、リンネは言葉を続ける。
「皮肉なことに、このXの存在があったことで、凶徒の候補者はかなり絞られるんだよ。何故ならXでないと確定した場合、それは凶徒でないのと同じ意味になるから。だってそうだよね、わざわざ探偵に似せた格好をして姿を晒すなんて、自分の姿を誤魔化したいか、私たちの目を欺きたい意図が透けて見える。そんな悪どいことを考えるのは、決まってるよね」
リンネは断定的に云った。
「Xになり得るのは、さっき挙げた四人と凶徒でないと断定できない君を合わせて五人。そして久谷さんと鳥羽くんは除外するよ。彼らには二つのアリバイがある」
「二つ?」
「そう。まず私自身が証言する。私はその日はずっと久谷さん宅を見張っていた。彼らはずっと家にいたよ。それに久谷さんとずっと一緒にいた鳥羽くん自身もそう証言しているの。同時刻に一樹くんが通学途中の坂のうえでXを目撃しているから、彼らはXにはなりえない。次に佐武くんだけど」
とリンネは少し間を置いた。
「……彼に関しては残念だけど、君の知りえない証拠があるからパス」
「は、なんだよそれ?」
すかさず山里が噛みつくが、やはりリンネは無視するようだった。
リンネ以外知りえない二回目の夢現での証拠である。佐武は二回目の第二の事件で殺され、その遺体はリンネが確認したと云っていた。実際に殺された未成事実があるのだから、彼が凶徒ということも考えにくい。
「で、残ったのが君と江守くんの二人。でもね、江守くんがXというのもあり得ない。だって江守くんはXと対峙していたもの。江守くんが共犯の可能性はあったけど、ね」
リンネの推理論弁は佳境を迎えていた。
「となると、残るは君だけだね。ここで第二の事件に立ち返る。あの遺体は、もしかしたら君ではなく、佐武くんだったのではないかと。──簡単なトリックだよ。犠牲者の入れ替わりトリック。その可能性に行きつけば、全てがしっくり収まった。そのやたらと小説を見立てに使いたがる自己顕示欲も含めて、ね。一樹くんと二人して合点がいったよ」
リンネもなかなか辛辣なことを言う。
「夢現だから、どんなイレギュラーがあるか分からない。だけどね、私たちのなかで一番凶徒として可能性が高かったのは、山里くん、君なんだよ」
静かにリンネはそう云って、言葉を切った。探偵と凶徒が黙して見つめ合う。
やがて、山里は引き攣ったような低い声で嗤った。尾を引くように、一頻り。
そしてその不気味な嗤笑が止み、彼はおもむろに口を開いた。
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