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21.凶徒の追憶
──気付いたら、山里もまた、時を遡っていた。
身に覚えのない違和感があった。
実家の洗面台の鏡を覗き込み、そう気づいたときには愕然とした。
この突拍子がなく、奇異な出来事には覚えがあった。
これは、夢現世界だ。
──自分が囚われる側なのは、初めてだったが。
そう気づいてからは、彼は半ば愉快な気持ちで夢現を闊歩していた。
この夢現発現者は、一体どんな暗澹とした想いを秘めているのだろうか。どんな手腕でターゲットを屠っていくのだろうか。たまには気楽に、その状相をはたからじっくり観察してみるのを面白いかもしれない、そう山里は思った。
万が一、その凶刃が自分に向いたとしても対応の術はいくらでもあるのだから。
だが、待てど暮らせど展開がない。ただ退屈な日常がダラダラと繰り返されるだけだ。だんだん焦ったい気持ちが募っていった。
山里はもう少し大胆に動いてみることにした。凶徒には凶徒の視点がある。ほどなくして、山里は夢現発現者が久谷老人だと突き止めるに至った。
いつまでもこんな生温い夢現に囚われているなんて、たまったものじゃない。今回の夢現発現者でないのもかかわらず──凶徒として何度も夢現を発現しているからだろうか、定かではないが──、夢現での記憶が毎晩はっきりとしているのである。故に、フラストレーションが蓄積していく一方だった。
さっさと久谷老人を屠って、夢現を瓦解させるつもりだった。
だが、久谷老人と話して気が変わった。
夢現を発現した本人にもかかわらず、話の要領を得なかった。きっと耄碌しているのだろう。山里はそう思った。どうやらこの時代、小学校時代の遭難事故で失った愛犬に妄執し、無意識に原因と考えられる彼ら彼女らを夢現に拘束しているようだった。
もしかしたら、出版した小説が影響しているのかもしれない。
話しているなかで、小説が事実を元にしているのかという問い合わせをしたのが、久谷老人自身であることも知った。久谷老人がこの小説を手に取ったことにもなにかしら運命を感じた。
霊感が働いた。面白そうだと思った。だから嗾しかけてみたのだ。
──僕が代わりに、レオを殺した奴らを粛清してやろうか?
久谷老人から明確な答えが得られたわけではなかった。言ったことを理解できなかったのかもしれない。ともかく山里は、心影と化していたレオを従えることに成功し、早速、準備に取り掛かった。
計画には、世に羽ばたいたばかりの自作小説を使うことにした。
そもそもこの小説自体、自ら夢現を張り、過去に殺してきた場面に触発されて文章に書き起こしたものである。それに過去の事故を織り交ぜて世に出版した。
ここでの見立てにはピッタリだと思った。
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