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折りよく夢現で旧友たちが集合した。これまでの観察を含めて、夢現の同居人はあらかた把握できた。以後の夢現のイニシアチブをとる伏線も張れた。
そして次の日に控える同窓会。なんという天の采配だろうか。
やりようは幾らでもあったが、山里は契機付けに皆に小説を配ることにした。
──さて、誰かこのギミックに気づくかな?
気づいた者にはもれなく、不可視の恐怖をプレゼントしよう。
呑気に感心している一同を見つつ、山里は内心くつくつと嗤笑していた。
*
最初の犠牲者は決めていた。──倉林だ。
あいつが崖から落ちなければ、あんな悲惨な結果にはならなかったのだから。当然だろう。
いや、それ以前に、自分が沙古谷山に行きたいなんて言わなければ、そもそもこの遭難事故も起こっていなかったのだろうか。ふとそんなことを思ったが、……まぁいい。
惨憺たるショーの幕開けだった。
本当は沙古谷山での事故を皮切りに始める算段だったが、どうにも我慢が出来なかった。
倉林がぽつねんと小学校の教室に残っていたところを見かけ、食指が動いてしまった。衝動的に黒獣を嗾けていた。時刻は逢魔時だった。
山里は心影の目を通して、一部始終を見ていた。
ぼんやりと窓から夕陽を眺めていた倉林に飛びかかり、そのまま窓を突き破ってしまった。相当勢いがあったらしい。倉林は何が起こったか分からないような悲鳴を一瞬あげたが、すぐに黙りこくってしまった。
見晴らす視界には床がなかった。校舎の窓の外、四階の高さで宙ぶらりんになっていた。視界の端に倉林の姿がちらりと映った。よく分からないが、はたから見れば黒い化け物の顎門に挟まれた彼女の姿が見えたのであろう。既に血に濡れていてぐったりとしていた。
中途半端なショックは夢現からの離脱を許してしまう。それを知っていたから、致命傷にならない程度に怪我をさせるつもりだったが、少しやり過ぎたらしい。
滴った血の糸が、はるか階下に落ちていってすぐに見えなくなった。
なんだ、つまらないな。高所恐怖症の彼女にこの光景を見せつけて、反応を見たかったのに。
山里は興醒めしてスキアに彼女を離すよう命じた。途端に彼女の肢体が重力に従い、もの凄いスピードで落ちていった。
──お前にはこれがお似合いだ。
鈍い音がした。すぐに硬い地面に衝突し、じわじわと肉体から赤が拡がっていく。
山里はその様子を確かめ、ここではない遠い場所で口角を上げていた。
ふと物音を知覚した。教室の戸が開く音。すぐに心影に意識を戻す。すかさず黒獣を物陰に潜めさせ、ゆっくりと回り込むように、廊下側に移動させた。
今しがた倉林がいた教室に人影があった。──一樹だった。
どうやら殺人現場を視認したようで、腰を抜かしたように床にへたり込んでいた。予想以上に目撃が早いと思ったが、想定の範囲内だった。
ついでだから、こいつも殺しておくか? 第二の事件の見立ては比較的簡単だから、特段ここで実行しても困ることもない。さて、どうしようか。
そんなことを考えていた矢先である。さっと目の前を何かが横切った。
ちょうど今後の計画を画策して、思考の海に浸っていたのもあり、反応が遅れた。
気づけばそれが一樹を豪快にぶん殴り、双方さっと消失していた。
狐に摘まれたようだった。
いまのは、なんだ。……まさか探偵か?
そんな馬鹿な。山里は戦慄した。
さすがに想定外だった。
いくらなんでも早すぎる。まだ第一の殺人を実行して間もないのだ。
今後は少し慎重に動く必要があるかもしれないと、山里はそう思い唇を舐めた。
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