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22.まだ見ぬ結末
狂気の熱が籠った言い草だった。
止めどなく吐き出されるのは、事件の裏側と、凶徒の記憶の断片。
どこか自棄ともとれる発言は、パズルのピースのようだった。バラバラだが、フレーム内の空白も残り僅かのため、比較的すんなり組み立てられる。
一樹は山里の雑然とした告白を、どこかやり切れない心持ちで聞いていた。
この感情はなんだろうか。あまりにも自分勝手な都合で旧友を殺された怒り、人はここまで残酷になれるのかという惧れ、無様に喚く彼への憐み、……いろいろ混ざってよく分からない。
何が彼をここまで変えてしまったのだろう。
やがて喋り切って満足したのか、山里は起き上がるように身動ぎした。痺れはだいぶマシになったのか、勢いをつけてどうにか身を起こそうとする。
だが、手足の自由は相変わらず効かないようで、何度か失敗しながらもようやく座るような体勢に落ち着く。それでも後ろ手を縛られたおやま座りという、奇妙な格好ではあるが。
大きく一息をつくと山里は、
「……はん、地道な調査ご苦労様」と再び憎らしげな視線を飛ばした。
「凄いな、感動したよ。簡単に論理が破綻する支離滅裂な夢現でさ、ここまで生真面目に探偵してるんだもの」
どこまでも嫌味な物言いをする。
「でも、一つ腑に落ちないのは佐武の否定の推理だ。なんだよ、僕が知り得ない証拠って。そこだけぼかしやがって。──お前の隠し種に関係あるんだろ? ここまで探偵ごっこに徹しているんだ。攻撃系、ではないよな。あいつらは現場を見つけると、力で押し切ってくるからな。それを捻じ伏せるように屠っていくのが一興なんだけどさ」
山里が饒舌に云う。その話ぶりから、随分思考が凶徒に染まっているのが伺えた。
「お前、一体今まで何人殺してきたんだよ」
山里が一樹を一瞥した。
「知りたい? でも残念ながら、僕もそんなのいちいち覚えてないよ」
彼は軽々しく言い放った。また目眩がしそうだった。
「……リンネもういいだろ」
山里の倫理感を基準に話していると、心が疲弊してくる。
こんな奴、もう知るかと一樹は諦めにも似た心持ち、リンネに声を掛けた。
リンネ、と山里が呟いた。その表情にサッと疑念が走る。
「……リンネ。噂に聞いたことがある。お前もしかして、繰り返す探偵か?」
彼女は答えなかった。無言を肯定と悟ったのか、山里はどこか呆然としたような表情を浮かべた。
「なんだよそれ。そうか、それで佐武が違うって断言したのか。それだけの証拠が消えた夢現にあったのか。そんなの、狡い。チートじゃないか」
言うに事欠いて、狡い、チートとは。事情を知るだけに、流石に腹が立った。
「おい山里。その言い方は──」
「お互い様。それに、そんな軽々しく君に言われたくない……!」
一樹の言葉を遮るように、リンネが山里に言い放った。彼女にしては刺々しい物言いだった。言葉に凄みがあった。
一樹は、山里の視線が忙しなく動いているのに気づいた。脱出の術でも目論んでいるのだろうか。だが、その表情にじわじわと焦燥が現れてきた。加えてロクに身動きができない苛立ちも助長したのだろう。
「くそ、くそぉ! なんで、でてこないんだよ!」
唐突に山里は誰に言うわけでもなくそう叫んだ。情緒不安定になっている。きっと心影のことを言っているのだろうと一樹は思った。
「君くらいの手練れなら知っているはずだよ。これは言霊の枷鎖。心影はもう操れないし、見えないけど拘束も相当なものでしょ」
言霊の枷鎖。以前、リンネが説明してくれた探偵の切り札だ。
「きっと君は名体相違も狙っていたんだろうけどね。お生憎様。そのあたりは一樹くんが命を張って突き止めてくれたからね」
さきほどもリンネが言った通り、推理の再構築の結果、凶徒の候補者として急浮上したのが山里だった。だから今宵の夢現は、その前提を念頭に置いて動いていた。
だが江守から凶徒の証言を貰っておいて尚、一樹は怪我を負ってまで必死に凶徒に組みつき、自らその素顔を暴いた。どうしても自身の手で確証を得たかった。
最後の詰めの甘さで、リンネを死なせるわけにはいかなかったから。
「ふん。今回は最後の最後で油断したけど、次はそうはいかないからな! 夢現はインスピレーションの宝庫なんだ。現実で小説にも還元できる。ここを出たらもう、お前らの好きにはさせない。もう自由にさせてもらうからな!」
負け惜しみのように山里は吠えた。
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