22.まだ見ぬ結末

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* 外から見上げる理科実験室の窓は赤く鳴動し、どこからか黒煙を吐き出している。 どこまで延焼するのだろうか。 いくら夢現だとはいえ、母校が燃えるのを目の当たりにするのは後味が悪い。 やがて、一階の渡り廊下から狩野が姿を現した。 その腕には白と赤と黒に染まった肢体が収まっている。全身にひどい火傷を負った山里だった。 狩野が消火にあたったのだろう、山里は消火器の粉に塗れていた。服はほとんど真黒に焦げていた。 そして彼はピクリとも動かない。 「死ん、でるのか?」 「運が良ければ、かろうじて生きているんじゃないか。こいつにとっては悪ければ、になるのかもしれないがな。……まぁ死んだとしても墓守に処理してもらうから」 にべもなく狩野はそう言った。 「山里は、どうなるんだ?」 一樹は長身の狩野を見上げて聞いた。 「友達思いだなぁ。いや、それとも然るべき罰を受けてほしいって意味で言ってるのか?」 一樹は押し黙った。その問いは意地悪だ。そんなことないと声を大にして否定できない。山里は、それだけのことをやっているのだ。 ただ、凄惨な姿の彼を見ると、そう思っている自分が冷酷な人間のように思えてしまう。 「こいつは、とある夢現の深い階層にある夢現牢獄(むげんろうごく)に囚われることになる。肉体が死んでも罪の年数だけな。数十年かもしかしたら百年単位か。それは分からないがな」 「……気の遠くなるような話だな」 どこか脳が麻痺したようだった。考えることを放棄しつつある節すらある。 不意に欠伸が出た。慌てて口を押さえた。こんな神妙な話をしている最中なのに。 「はは、もうおねむか?」 子供扱いするな、と思った。 「俺が大学生なの、知ってるだろ」 だが、どうも欠伸が止まらない。前にも思ったが、寝ているのに眠いとは一体どういうことなのだろう。これは、寝不足の時よりひどいかもしれない。 一樹は狩野に背を向けた。真面目な会話をしていたのに、これでは締まりがない。 「おう。もう休め。お前さんも怪我しているから。……これはちょっと目が醒めないかもしれないなぁ」 くわと欠伸をした最中だったから、後半よく聞こえなかった。……なんだか不吉なことを聞いた気がした。 「この夢現の事件もこれで終いだ。……発現者でない凶徒の犯行もここ最近増えている。なんか嫌な意図を感じるぜ」 狩野がそうぼやくように云った。 怪訝に思って一樹が首を捻ると、すでに彼は不敵な笑みを浮かべていた。 「じゃあ、後はこっちの仕事なんで。お前たちご苦労さん」 狩野は最後にそう云うと、踵を返した。何処に向かうのだろう。そう思った矢先、不意に彼の姿が掻き消えた。 彼もまた夢現の事情を知る者で、何らかの役割を持っているのだろう。一樹はそれ以上深く考えるのをやめた。眠気が思考の邪魔をする。 「──なんだか気が抜けちゃったね」 今まで隣で様子を伺っていたリンネがわずかに頬を緩めた。 「そうだな……」 ふぁとまた一つ欠伸が出たのを噛み殺した。 リンネの言う通り気が緩んだか。……いや、そうじゃない。さすがにおかしいと思った。 「俺、どうしたんだろう」 少し怖くなっていた。 リンネが安心させるような優しい表情を浮かべる。 「夢現で体に残るような怪我をするとね、修復作用が働くの。それだけこっちの影響は大きいんだよ。一樹くんは今、現実でも同じように疲弊しているの。身体のダメージをそのまま心がダイレクトに受けちゃってる感じかな」 原理は分からないが、何となく理解できるような気はした。夢現で死ねば現実でも同様になる。その原則があるなら怪我についてもまた然りというところか。 「大丈夫。寝れば治るよ」 安心して、とリンネは優しく言った。 その後、リンネは一樹の実家まで送ってくれた。何度か来たことがあるため、道もすっかり覚えてしまったらしい。 「おやすみ一樹くん。気休めかもしれないけど、少しの間ゆっくり休んでね」 リンネはそう言って玄関の扉を閉めた。 ──ごめんね、ありがとう。 最後にそんな声が聞こえた気がしたが、気のせいかもしれない。 一樹はフラフラとした足取りで自室に向かうと、そのままベットに倒れ込んだ。 もういろいろ考えるのが億劫になっていた。 数秒後には意識が飛んでいた。
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