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23.後日談
──気付いたら、見慣れない白い天井があった。
一樹は何度か目を瞬いた。
頭を僅かに傾けても、目に映るのは白一色だ。白いシーツに白いカーテン。
消毒液の匂いが鼻についた。これは──病院の匂い。
身を起こすと腕に違和感があった。見下ろすと腕に医療用テープが何本も貼られていた。細い管が留められており、傍らには点滴が控えていた。
頭がボンヤリとする。しばらく思考はまともに働かなそうだった。
やがてシャッと控えめな音がした。一樹が視線を向けると、カーテンが半分ほど開け放たれており、一人の女性が茫然とした表情で佇んでいた。
一度瞬いたら、その顔は泣き笑いに歪んでいた。
「一樹、……よかった!」
次の瞬間、ばっと抱きつかれていた。なんと手荒なハグだろう。一樹は目を白黒させた。こんな大胆な抱擁をしてくる人物、一人しか知らない。ふわりと嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りがした。
それでも数年来ぶりの再現で、とても久しぶりな気がしたが。
「あ、姉貴?」
一樹はちょっと離れて欲しいと身動ぎした。白いカーテンの向こうで、カルテを持った若い看護師が何事かと覗き込んできた。
莉子が少しだけ身を離した。それでも顔は近い。
「あんた、二日間全然目が醒めなかったんだから。ほんと心配したんだから!」
莉子の声が激情に震えていた。そう言われても一樹には全く実感がなかった。
記憶を巡らす。難しいかと思ったが、意外と鮮明に思い出せた。
まるでついさきほど起こったことかのように思い出せる、小学校での駆け引きと攻防。
決着はついた。もう、終わったのだ。
「もう大丈夫。姉貴、心配をかけたな」
そう言うと、一樹は点滴の繋がる腕を持ちあげた。安心させるように莉子の腕をポンポンと叩いた。
……腕を動かすなと、あとで看護師に窘められた。
──それ以来、小学校時代の夢現に誘われることもなくなった。
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