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嫌がらせ計画
「ということで、白雪姫子に嫌がらせをするわ」
「何言ってんの。妃ちゃん」
ピンクとフリルで装飾された六畳の部屋。
寝村瀬妃が、自室のベッドの上で堂々と宣言を行い、それに友人の毒島りんごがツッコミを入れる。
中学校時代からの親友同士である二人の間では、よくあるやりとりである。
「りんごちゃん。これは、女の戦いよ」
「はあ」
「私から鏡を奪った白雪姫子に嫌がらせをして、追い詰めて、恋愛の舞台から追い落とすの。
そうすれば、きっと鏡だって思い直してくれるわ」
「鏡君って、いじめとかする人をすごい嫌うけど」
「う゛」
そもそも、妃とマコトが仲良くなったきっかけが、いじめられていた妃をマコトが助けたことだ。
当時のそのいじめというのは、幼い好意の裏返しというか、好きな女の子に対する男の子のいじわるだった。
しつこく「ぶすぶす」と言って、妃に何人もの男の子がつきまとった。男性不信に陥りかけていた当時の妃をかばって「きさきちゃんは、かわいいよ」と言い続けてくれたのがマコトである。
マコトはいじめっ子達とも時に殴り合い、怪我をすることもあった。
それでも、マコトは妃をかばい続けた。
そんなマコトに、妃が嫌がらせをしていることが発覚すれば、信用がた落ちどころの騒ぎではない。
二度と口をきいてもらえないだろう。
ただ、それもまともに嫌がらせをできればの話だ。
白雪に迷惑がかかるとすれば嫌がらせという行動ではなく、寝村瀬妃というキャラクターが迷惑という、いうなら人としての相性の問題になるだろう。
「戦いも何も白雪さんは舞台にも上がってないわけだし」
「う゛ぅ」
「そもそも、そういうのは、「世界で一番かわいいのは誰?」とか回りくどいことせずに。
真っ正面から告白して玉砕してからでしょうに」
「う゛ぅう」
「ほら、分かったらさっさとメールでも電話でもいいから玉砕しなさい」
実際問題、妃自身も自分があさっての方向に突き進んでいるのは分かっている。
姫子に嫌がらせしたところで、問題は何も解決しないし、むしろ悪化するだけの八つ当たりに過ぎない。
「う゛ううう、無理!今は無理!
前の告白で全勇気消費しちゃってるもん」
「告白ねえ。
まあ、鏡君もなんでこういう時だけ鈍感系ラノベ主人公みたいなことになるのかは疑問。
普段はそうでもないはずだけど」
「もしかして、私遠回しにふられたんじゃ」
妃の言葉に、りんごは少しだけ考えて頭を左右に振った。
マコトが妃を振ることはまずない。
それは本人達には分からなくても、周囲から見れば一目瞭然だ。
仮に振るにしても、マコトの性格なら真っ正面から完膚なきまでに振るに違いない。
良くも悪くも駆け引きができない男なのだ。
そんなりんごの思考をよそに、妃は一人暴走していた。
「遠回しに振るついでに、本命は白雪姫子だって伝えてきたんじゃ。
おのれ白雪姫子め!」
暴走の終着駅は、やはり白雪姫子らしい。
妃の様子を見るに、なんらかの形で発散させないと、冷静にはならないだろうとりんごは判断する。
猪突猛進な妃の気性は、悪い方向に発揮されると今回のように、目的を忘れ、迷走を続けることになる。
りんごは、ため息を一つついた。
このままほっておいて妃が暴走を続ければ、他人に迷惑をかけかねない。中学校時代からの友人として、それを見逃すわけにもいかない。
「仕方ないか。白雪さんへの嫌がらせ。私も手伝うよ」
どうせ止まらないなら、せめて自分の目の届く範囲で暴走させておく方が良い。
そう思ってのりんごの言葉に、妃は目を輝かせる。
「さすがりんごちゃん!一人だと心細かったの!」
「やっぱりこのパターンになるのよね」
「実は嫌がらせとかどうすればいいか分かってなかったし」
「でしょうね」
幼稚園時代からマコトが保護していたおかげで、妃は人の悪意から隔離されていた。
嫉妬や悪意が心に生まれても、それをどういう風に形にするかまではいまいち分かっていない。
マコトやりんご相手なら真正面からぶつけて終わりだが、今回のようによく知らない相手に嫌がらせという陰湿な手段をとったことはない。
けんかなどで、プロの格闘家よりも素人の方がやり過ぎてしまうことが多いように、知識や経験がないと限度というのが分からない。
だからこそ、りんごが監視する必要がある。
「りんごちゃんは、どんな嫌がらせがあるか知ってる?」
「そうね。定番で言うと画鋲を靴の中に入れるとか」
無論、そんなことをさせるつもりはない。
昔、怪談大会で足の指が剥がれる描写を丹念に語った時、顔を青くしていた妃のことだ。
画鋲を靴の中に入れ、相手に踏ませるなんて痛そうな話をすれば、それだけで怖じ気づいてしまうのではないかという期待込みの提案である。
けれど、その予想は外れた。
「それだわ!早速準備しましょう!」
言うが早いか、何故か台所へと駆けていった妃の後ろをりんごは追いかける。
恐らく、悪いことにはならないだろうという確信があった。
「おかしなことにはなるんだろうけど」
りんごは、中学時代からの妃との付き合いを思い出しため息をついた。
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