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体育倉庫での嫌がらせ?
放課後、りんごと姫子は校舎裏の体育倉庫に来ていた。
森野高等学校では、同じサッカーボールなどでも、運動部の備品は運動部用倉庫、授業の体育で使う備品は体育倉庫というように、別の場所に保管されている。
そのため、りんご達の目の前にある体育倉庫は授業の終わった放課後に来る人間がおらず、運動場の活気あふれる声と対比して、妙なおどろおどろしさがあった。
プオー。と吹奏楽部の練習する音が響いてくる。
「あの、りんごさん。本当にここなんですか」
「うん。気持ちはなんとなく分かるけど、そんな警戒することないよ。
入って入って」
不安そうな姫子の背中をぐいぐいと押しながら、りんごは体育倉庫へと入っていく。
ここで何が行われるのか。
りんごはその内容を知っている。
下駄箱に画鋲を入れる嫌がらせ計画改め白雪姫子にクランチチョコを手渡す嫌がらせ?計画をたてた時に、いくつかでた案の一つだ。
少女漫画でよくあるシチュエーションである。
誰もいない薄暗い体育倉庫。
いじめっこ達に閉じ込められた女の子が心細さに涙する。
その状況を再現しよう。というのが今回の計画である。
「がちゃりんごっと」
「えっ、りんごさん。なんで鍵を閉めたの」
跳び箱やマットなどが整理されておかれている体育倉庫の中。
蛍光灯がぼんやりと周囲を照らし、湿っぽさが肌に感じられる。
いつもよりも埃っぽくないのは、この時のために、妃が昼休憩の時間に掃除したからだ。
「ふふふ。袋のネズミと言う奴ね。白雪姫子」
跳び箱の影から、ゆっくりとした所作で一人の女の子が現れる。
りんごからすると見慣れた顔だ。
けれど、姫子からすると初対面だろう。
「貴女は確か、根村瀬妃さん。ですね」
姫子から発せられた固い声に、りんごは少しだけ驚く。
妃のことを姫子は知っているらしい。
想定外のことだったらしく、妃も意外そうな顔で姫子を見ている。
ついでに、自分のことを姫子が知っていたのが嬉しかったのだろう。
妃の顔からしまりというものが消え、だらしなく口元が緩んだ。
が、すぐに表情を引き締める。
「知っていてもらえたとは光栄ね。
そう、私は寝村瀬妃。
りんごちゃんの友達で、鏡の幼なじみ、1-A美化委員。
趣味は料理と美容ヨガ。
犬派猫派でいうと猫派よ!」
妃としては、悪役が宣戦布告するような堂々とした名乗りのつもりなのだろう。
その内容はただの自己紹介である。
満足そうに胸を張る友人の姿を見て、りんごは友人の将来が心配になる。
だが、初対面の姫子にはそれなりに威圧感を与えられていたらしい。
警戒した態度で、妃に対して問いを発する。
「それで、寝村瀬さんと毒島さんは、私をこんな所に呼び出してどうするつもりなんですか。
まさか、本当に美容の話をしようなんてことはないでしょう」
「察しがいいじゃないの。
そうよ。私の狙いは白雪姫子を体育倉庫に閉じ込めること。
さしあたっては一時間。
この中から出られるとは思わないことね」
りんごの側からは背中しか見えないが、姫子の体が緊張でこわばったのが見て取れた。
無駄な緊迫感の中、りんごの意識は今日の晩ご飯の内容へと飛んでいく。
昨日がカレーだったから、今日もカレーだろうし、明日もカレーだろう。
それはいいのだが、アレンジして昼の弁当すらドライカレーにするのはいかがなものか。
自主的にコンビニサラダでも摂取しないと、そろそろ体が黄色くなり始めている気がする。
りんごがあほなことを考えている間に、あほな話は進んでいく。
「ということで、白雪姫子。
一時間の間トランプでもしましょ。
ババ抜きなら負けないわ。
鏡相手なら勝率8割ですもの」
ウキウキとトランプをシャッフルする妃。
それを見てりんごが思うのは、「鏡君は相変わらずだだ甘だな」ということだ。
ちなみに一時間に及ぶババ抜きは案外盛り上がった。
妃の表情があまりにもわかりやすく変わる。
そのため、りんごやマコトは普段、そこそこ妃に勝たせつつ、調子に乗らない程度にこちらも勝つという接待プレイに徹する。
だが、姫子は最初から最後までガチで戦い続けた。
結果、妃に対する姫子のババ抜きの勝率は10割となり、
「次は一回くらい勝つから!」
妃がリベンジを誓い、
「受けて立ちます」
姫子がそれを受け入れたことから来週も、同じメンツでババ抜きをすることとなった。
ちなみに、体育倉庫への閉じ込めがババ抜き大会になった経緯は以下の通りである。
「体育倉庫への監禁か」
「うちの学校、放課後は部室倉庫ばっかで体育倉庫使わないから、できないことはないね。
普通にスマホの電波届くからすぐ助け呼ばれると思うけど」
「なら、助けを呼べないように私達も一緒に入れば良いわね」
「へえ、それで、体育倉庫で白雪さんになにするつもり」
「そうね。トランプとかどうかしら。
適度に暇を潰せるし、かさばらないし。
あと、スマホに映画をいくつか入れておきましょう。
それにあそこ埃っぽいから計画の前に掃除して、敷物も用意しないと」
「妃ちゃん。目的分かってる?」
「え?白雪姫子を体育倉庫に閉じ込めるんでしょ」
「そうなんだけど。
一応聞いておくけど、白雪さんが途中で体育倉庫を出たいって言ったらどうするつもり」
「勿論!それを言わせないくらい楽しい時間を演出してみせるわ!
トイレって言われたら仕方ないけど、任せておいて。
そんなこと言わせないくらい万全の準備で臨むから!」
これが、白雪姫子への嫌がらせ。
体育倉庫に白雪姫子を閉じ込め計画の作戦会議の全容である。
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