悪口収集

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悪口収集

白雪姫子を体育倉庫に閉じ込めてババ抜き大会が行われてから一ヶ月ほど経った。 その間、妃からの姫子に対する嫌がらせはエスカレートしていった。 朝は姫子を待ち伏せて一緒に登校。 休憩時間はトイレへと連れ込み下らない世間話で拘束。 昼休みになれば姫子を太らせてスタイルを崩すという名目で手作り弁当を持参。 放課後は妃とりんごで姫子を拘束し、トランプや各種ゲームで精神を削る。 休日は3人で街に出かけて、なんと姫子の食べていたアイスクリームを一口強奪することに成功した。 「くっ、まずいわ」 妃視点においては順調に見えているであろう白雪姫子への嫌がらせ。 だが、妃が苦悶の表情でうずくまっていた。 「どうしたの妃ちゃん。罪悪感でも沸いてきた?」 どうせどうでもいいことだろうな。と思いながら、りんごがたずねる。 妃は、少しだけりんごから逃げるように顔を背けた。 その顔には、りんごが指摘したようにかすかな罪悪感と戸惑いのようなものが見えた。 自分自身の感情を自分でも理解できていないような表情。 「りんごちゃんには、今回の白雪姫子への嫌がらせにとっても協力してもらったわ」 「ええ」 「色々な汚れ仕事もさせてしまった」 「ん?まあ、妃ちゃん視点ではそうなるのか」 「なのに私、私は・・・・・・!!」 耐えきれない。 そんな風に、妃が自らの顔を覆った。 そして、吐き出すように懺悔する。 「私は、白雪姫子のことをちょっと好きになりかけている」 りんごは「え、ちょっと?大好きじゃなくて?」と言いそうになるのをこらえた。 あれだけ四六時中一緒にいて遊び回っていれば、愛着もわくだろう。 それに、妃には裏表というのが少ない。 だから、姫子が本当に嫌な女で、妃自身が気にくわないと感じたならば、例え嫌がらせだろうが長時間一緒にいることはあり得ない。 姫子にしても、りんごが見る限りにおいては妃との交流を楽しんでいるように思う。 「ちなみに妃ちゃん。  姫子ちゃんのことはどのくらい好きになりそう?」 「・・・・・・りんごちゃんの、次、くらい?」 今度、妃にケーキでも食べさせようとりんごは心の中で誓う。 友人ランキングナンバー1の称号を、こんな短期間で奪われるのは、承服できない。 「だけど!白雪姫子に嫌がらせするのに、この感情は不要!  鏡を奪わせたりしないんだから!」 なら、姫子に構っている時間をマコトへのアプローチに使えばいいのにとりんごは思う。 思うだけで言わない。 ちなみに、姫子に対する妃の嫌がらせについて、マコトに訪ねてみたところ、回答は以下の通り。 「妃にまともな嫌がらせができると思えないし、りんごもいるなら変なことにはならないだろ。  あっ、でも、白雪さんに迷惑かかるようなら言ってくれたら、こっちで対処するから」 信頼しているのかしていないのか。 少なくとも、マコトが白雪に気があるという妃の懸念は的外れなことだけは確かだろう。 りんごは、そのことに安堵する。 「りんごちゃん。聞いてる?」 「え?ごめん。聞いてなかった」 「じゃあ、もう一回言うね。  私ね、白雪姫子を嫌いになるために、あの子の悪口を集めようと思うの」 その提案に、りんごは眉をしかめる。 赤の他人が放つ悪口というのは、無責任で不確かで、なのに当人を時に深く傷つける。 特に姫子は、子供の頃芸能界という派手な舞台にいて、かなり目立っていた。 現在は芸能活動を休止している。 それでも、ネットや校内には、目立つものに対するやっかみや嫉妬、好奇など悪意というものは存在する。 実際にりんごも姫子のそういった噂を聞いたことはある。 「枕営業をしていた」 「芸能人視点で人を見下している」 「成績を金で買っている」 「だれそれの彼氏を奪った」 「動物を虐待しているのを見た」 などなど、姫子と少しでも会話したことのある人間ならすぐに嘘と分かることばかりだ。 悪口というのは、言うのも聞くのも気分が悪い。 それが、知人であればなおさら、ましては友人ともなれば一層だ。 けれど。 「分かった。じゃあ、姫子ちゃんの悪口言ってる人たちとお話ししてみようか」 妃は知るべきかもしれない。 周りから白雪姫子という女の子がどういう扱いを受けているか。 世間の悪意というものはどういったものか。 人に嫌がらせをするというのはどういうことなのか。 拳を握りしめる妃を見ながら、りんごはこの友人が世間の悪意を知って傷つくことを憂い、壊れてしまわないよう支えることを決意した。 その後どうなったかというと。 校内から白雪姫子に対する悪意ある噂話はなくなった。 代わりに、奇妙な二人組の噂が浮かび上がった。 その二人組は女子で、一人は女王様のように目つきが鋭く、一人はりんごのように丸くてかわいらしい。 白雪姫子の噂話をしていると、その二人はどこからともなく現れ、根掘り葉掘りその噂について聞いてくる。 「それ本当?」 「どこで聞いたの?誰に聞いたの?」 「ああ、なんだ証拠ないんだ」 「つまりデマってこと。デマの拡散してるってこと?」 「他の噂は、知ってる噂ない?あからさまなデマじゃなくて、確実性高いやつ」 二人にしつこく食い下がられるのが、めんどくさくなって噂をする人間はいつしかいなくなっていた。
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