待宵草

4/9

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
一人暮らしを始め、もう五年。 アパートの部屋は一階で、すぐとなりにある空き地は誰も手入れをしていないのか雑草まみれだ。 夏を前に業者が刈るまでは伸びっぱなし。 虫が入るからと なかなか開けなかった大きな窓を換気の為に開く。 縁側まで首を伸ばした雑草に出会った。 細長い緑色の蕾をしたマツヨイグサ。  子供の頃、蕾をちぎって慎重に皮を剥いで、現れる黄色の花弁に「小さなバナナだよ!」 なんて兄に持っていった覚えがある。  小説や和歌ではよくツキミソウなんて言われる野草だ。  夕暮れになり、スマホを開く。 いつものようにスクロール、ぴたりと止めて筆を読む。 その言葉が、何やら呼びかけているように感じた。 「ん~...」 暫く悩んだ末に、返信する。 あ、しまった。初めて返信するんだからちゃんと挨拶ぐらいするべきだった。 送った後で気がついて六畳の部屋をうろうろと歩き回る。 ピロンッ 初めて聞く着信音に驚いて手にしていたスマホを滑らせ床に落とした。 拾い上げると画面の端にハートマークと青い鳥。はぁ、これがTwitterの通知ですか。 いつも覗いて「いいね」しか しないから知らなかった。  跳ね上がる鼓動は月夜に草原を駆ける兎だ。 私はただ空を見上げて、届かない月に舞い上がっていた。 返信に返信が返ってきて、「いいね」がついてすっかり舞い上がった世間知らずの私はこれを機に調子づいて呟いたり、返信ツイートをするようになった。 本当の月見草は白く、一晩咲くと色がつき枯れるとか。 なんだかロマンチックな花であるが、マツヨイグサは色も違っていれば多年草、月に憧れ黄金色に染まっただけのただの雑草。 ツイートしたところで「いいね」なんてつくわけもなく、毎夜月を見るために空色の画面を押すだけだ。 それでも構わないと、思っていたのが悪かった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加