待宵草

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帰り道、すっかり暗くなった夜空に月を見る ああ、まだ見てなかった。 癒しを求めてふと立ち止まってスマホを開く まさかの偶然は幸せだけを連れてくるわけじゃない。 ちょうど目に入った呟きにふと先程のケアマネの言葉が重なった。 いや、人も意味も違うんですけど。 そう思いながらも返してしまった呟きは何度見返してもやはり失礼な言い方だった。 どうしよう... 送ってから気づくのもやはりいつものことで。大きくため息をつきなから帰路を歩いていった。 だいたい、なんでこんなに自分は落ち着かないのだろう。そんなに気になる言葉だったか そう自問して、気がついた。 自分のことなのに、私はいつも気づくのが遅い。人や言い方ではなく、「みんな(単語)」に反応したのだと。 家のドアを開け、荷物を置く。 タイミング悪く、スマホが鳴った。 失礼な返信にも関わらず丁寧に返ってきた呟き。歯止めの利かない私は言い訳じみた告白をする。 その言葉は私のトラウマだと。 怒りをぶちまけるように。 「最悪」 送っておいて呟く。 彼は何も知らず、急に八つ当たりされてさぞ困惑してるだろう。自分の恥を晒すだけならまだいい。それよりも彼を傷つけてしまったかもしれない。 「なんでこうなるのかなぁ」 誰もいない部屋には私の声だけがよく響く。 そりゃそうだ。今、私は一人で暮らしてる。 昔とは違う。 私には夫がいた。 まだまだ子供じみた考えしかなかった若い私は男を見る目がなかったようで、付き合って間もなくその人と籍を入れた。 友達付き合いの良いその人は結婚に憧れを持っていた私とは違いまだまだ遊び足りなかったようで。 転がり込むように私の部屋に居着いた彼は金遣いも荒い上にやっぱり女関係も色々と。 それでも結婚したら変わるかと思ったが、 人というのは簡単には変わらないようで。 数年後には何人女を作ってたのか。 そんな男を改心させるような話し方を私は知らなくて、喧嘩になることもなく、一方的に言われたのはあの一言。 「お前がそんなんだから浮気もしたくなる。結婚したからって小遣いぐらい好きに使ったっていいじゃん。」 「そう言ってる」 当時の私はみんなというものが私以外の全員に思えた。彼の家族、共通の友人。 夫婦の話を身内に話すのは恥だと思っていた私はずっと打ち明けられずに、馬鹿みたいに膝を抱いてうずくまるしか出来なくて。 ようやく彼から逃げるように家を出たのは、私の異変に気づいた兄が助けてくれたからだった。
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