彼女の本当の姿は

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物凄い静寂とピンと張り詰めた空気を孕んだ教室で誰もが固唾を呑みながら僕の方に視線が集まっていた。 教壇に立つ、若く美人な教師から鋭い目線が飛んで来る。 中断された授業とこの空気を作ったのは僕だ。理由はわかっている。 「何か言い訳はあるかしら?」 一人の女性の底冷えするほど冷たい声が教室中に響く 「いや、」 言い訳を言う前に彼女の追求が再始動する 「普段何をしているの?私の話聞いてた?昨日確かに言ったわよね?」 「すみません」 「謝って欲しいわけじゃないのよ?なんでやってないかを聞いているの」 現在追求されているのは昨日出された課題の一つを忘れていた事。 確かに忘れていた僕が悪いけれども面倒がすぎる、彼女の小言はまだ続きそうな雰囲気があったが 「昼休みに私のところに来なさい」 有無を言わさないと迫力でそう告げられ、僕は黙って頷くことしか出来なかった。 授業が終了してから、友人が近くに来る。 「お前も災難だったな、あんなのに絡まれて昼休み潰れるなんて」 「まぁ僕も悪いけれどね」 「あの冷酷姫から目をつけられるのは最悪だな」 クラス中から先刻の先生の悪口が絶えない。 赴任当初こそ、若く美人な新任の先生という事で人気を博していたが、苛烈な言葉と面倒なほどのしつこさ、そして感情にものを言わせないほどの冷たい声。 つけられたあだ名は冷酷姫。生徒からの好感度も生徒はの好感度も絶対零度なくらいに冷えきっており、あんな冷たい人間はいないと言われている。 「呼ばれたからには行くよ、そんなに嫌だという訳でもないし」 「まじ?俺なら絶対バックれるけどな」 「逃げたらその後の方が確実に面倒だよ」 「それもそうか、とりあえずごしゅうそうさま」 「ハイハイ」 友人と軽口をかわし残りの授業も消化されていく キーンコーンカーンコーン 気がつけば昼休みを告げるチャイムが鳴り、約束の時間となった。 「じゃあ行ってくるわ」 友人へと告げて職員室へ向かう 「先生来ました」 冷酷姫へ声をかける 「そう、じゃあ隣の部屋が空いてるからそちらへ行きましょう」 「わかりました」 彼女の後に着いて空き教室へ入る 先生がドアを開けてくれたのでありがたく教室に入ると、彼女は周りに人がいないから確認してから勢いよくドアを閉めから口を開いて 「ごめんなさい、怖くなかった?めんどくさくなかった?嫌いになった?でもでもでも、ちゃんとしないと周りの教師からめんどくさいこと言われるし、生徒に舐められるかもしれないから仕方がなくて、本当はこんなことしたくはないんだけど、教師である以上そうしないといけなくて、だから、だから嫌いにならないで欲しいなって思ってて、ダメ?」 勢いよくまくし立てられ、涙目でこちら側に上目遣いをしてきた。 授業での刺すような視線も取り付く程もないほどの空気もなく、そこにいるのは弱々しさばかりが見て取れる一人の女性だった。 本当の彼女の姿がそこにはあって、どちらにしてもめんどくさかった。
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