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「ちょっとまってね。あ、もう何でも食べていいから、向こうに焼肉弁当用意しといた。温めるから待って。おなかすいたでしょ」
そう言われると急に腹が減った。脱力感があるし、朝飯は粥と吸い物くらいしか食ってない。
温められた弁当を食べていると、はいこれ、といって刺し身が1切れ出された。この村で馴染みの鯉の洗い。え、ちょっとまって。これってひょっとして。
「身の部分だから大丈夫だよ」
「いや、そういう問題じゃなくてさ」
「神様に奉納したお下がりだよ。これを食べると運が良くなるんだよ。縁起物だから食べて」
「いや、流石に」
「それとも中身が入ってる鯉こくのほう食べたい? 全部混ざってるよ」
「こちらを頂きます」
「ちなみに鯉こくのほうは村長が村の豊穣を願って食べるんだよ」
ぐぅ変態。聞きたくなかったその情報。
目の前の箸でつままれた切れ端を見る。あのつぶらな目をした鯉の変わり果てた姿と考えるとなにか妙な気分になるけど、醤油つけて目を瞑ってパパっと飲み込んだ。でかい鯉は大味であまりうまくなかった。
「お疲れさん。これで全部終わりだから。君らもこの村に帰ってこないんだろ? 若い人がいなくなるのはやっぱりちょっと寂しいんだよね。だから戻ってきてほしいんだけどね」
「正直トラウマ。少なくとも俺が知ってる子が全員成人するまでは帰りたくない。恥ずかしすぎる。絶対中野さんみたいな目で見られる自信がある」
「まぁそうだよねえ。次の村長とは今の村長が死んだらこの神事はやめるっていう話は通してるからさ、まあそうしたら戻ってきてくれると嬉しいよ」
「考えとく」
多分戻らないけど。
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