鯉噛み村【短編】【下品】

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 なんだそれ。初耳。  聞いてみると、この村を出る男は必ずその神事に参加する決まりらしい。そうしないと役所が住所変更とか健康保険関係とかの切り替え手続きをしてくれなくて、とても外で暮らしていけないとか。なんだそれ。横暴すぎ。  詳しく聞いても親父は村から出たことがないから、神事があるということ以外は知らないらしい。それから神事については同じ神事に参加する者以外には他言無用だとか。鯉に祈りを捧げるって聞いたよ、だって。 「ってこと言われたんだけどさ、タカ、お前なにか知ってる?」 「んにゃ、俺も親に聞いたのはそのくらいかな~。近いうちに神社行ってこいってさ~」 「ふうん。じゃあ明日行くか」  姫鯉神社は姫鯉川(ひめこいがわ)の上流にある。翌日の放課後、俺たちは川に沿って敷かれた石段をダラダラ歩いて神社にたどり着いた。 「お主ら鯉は好きか?」 「まぁ、嫌いじゃないです」 「そうっすね~」 「では神社にいる鯉の中から(つがい)になる鯉を1匹選べ」 「はぁ?」 「ふぇ?」 「番になる鯉を……」 「佐々木(ささき)さん何言ってんの?」  小さな村だから宮司さんといっても知り合いだ。佐々木さんは宮司だけど、いつもは神社で木工細工作ってるおっちゃんだし家も近所。  佐々木さんは諦めたようにため息をついた、
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