いつまでも光り輝くCool Beauty

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 親子連れがリンゴ飴を手に去っていく。 「らっしゃい! 一つ一五銭ね!」  着物をたくし上げた男は銭籠を顎で示してくる。『一銭』は『一〇円』のレートで検番(いりぐち)で交換済みだ。  一〇銭硬貨と五銭硬貨を一枚ずつ籠へと落とす。男ははいよと、串を差し出す。串には、姫林檎を飴でコーティングしたものが刺さっている。祭り屋台でよくみる形状のものだった。  飴を舐めつつ屋台を離れる。通りへ視線を巡らせていく。  土曜日である今日は親子連れの姿が目立った。中学生くらいに見える子供は数人で群れていることが多かった。成人女性は片手にスナックを持っていることがままあって。和服を着込み慣れない風に歩いていく外国人の姿もあった。  古びた風に作り込んだ木造家屋が並ぶ通りに幾つもの屋台が並び、大きく間口を開けて土産物屋が客を呼び込む。観光客を団体で吐き出したのは、『大江戸楼』と看板を掲げた一際大きな建物だ。お座敷遊びを体験できるという触れ込みの、江戸時代の町を模したテーマパーク『江戸町パーク』の目玉アトラクションの一つだ。  そんな観光客の間を半透明の人影が駆け抜けていく。粗末な着物の子供、大きな荷物を抱えた人夫、刀を差したお侍、傘に袈裟で手を立てて何事かを唱え続ける托鉢の僧。  ぶつかっても怪我をする事はない。向こうは気にせず客側に不利益があるわけでもない。それでも、気づけば観光客は彼らを避けるし、彼らも客を避けて動く。
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