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眩暈がしていたとしても、深く絶望していたとしても、一度取ってしまった電話は地獄の果てまで追ってくる。
結局3度バイブレーションが途切れるのを確認してから、もう一度ベッドを出た。
スマホのディスプレイがブルーに光る。
ちらと見遣れば“20分以内にいつものカラオケ”という文字が網膜に滑り込んできた。拒否権はもともとないらしい。
着ていた部屋着を脱ぐ。そのまま、だるい指先で脱ぎ終えたティシャツをベッドの上に投げた。
無駄に夜目を働かせ、目の前にある衣類を引っ掴んで着替えた。冷えた素肌に布の感触が擦れて、半分寝かけていた意識が戻ってくる。
律儀にこの時間から家を出ようとしている自分があほらしい。そう思うのに逆らわないのは、なぜなのだろうか。
途方もないことを考えそうになってやめた。どうせ意味はない。あいつらが俺を呼ぶことにも、俺がそれに応じることにもたいした意味はない。ただそこにあって、隙間を埋めることができればいい。
別に俺でなくともいい。替えが利くような立ち位置だ。それにしてはいささか呼ばれ過ぎな気がするが、どうでもいいと思われるくらいのポジションが一番楽だ。
着替え終わってリビングに戻ると、当たり前のように外からセミの合唱が響いていた。うんざりしながらあたりを見回して、今更窓が開いていたことを知る。
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