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そりゃあ暑いしうるさかったわけだ。
そう思いながら、何の感動もなく窓を閉めてソファに座り直した。
慎之介は20分以内にと言った。
指定の時間を超えれば、おそらく何かしらのペナルティがあるのだろう。わかってはいたが、すぐに動き出す気にはなれなかった。
テーブルの上に置かれているアメスピを手に取る。中から一本を取り出して、唇に挟んだ。愛用しているジッポに火を灯して、移すように煙草に火を浮かべる。
息を吐いて天井を仰ぐ。そのままの体勢で、瞼を下ろしてはもう一度煙草を吸い込んだ。
ぼやけていた思考がはっきりと明瞭になる。実際には明瞭になった気がしているだけなのかもしれないが、どうでも良かった。
ゆっくりと立ち上がる霞のような煙に幻想が漂う。その幻想は俺を取り巻いて、あっけなく空気に存在を隠してしまう。
——数々の有害が、この世で息を潜めながらも、確実に存在していること暗示のようだ。
気色の悪い妄想に苦笑する。あまりに眠すぎてどうでも良いことにまで考えが及んでしまった。
煙草に揺らめく赤が視界に迫るのを感じて、腕時計を確認する。
二時二十五分。
どうせ無理だとわかってはいたが、20分であのカラオケ店に着くのは諦めた。
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