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だるい指先で煙草の先端を灰皿に擦る。あっさりと消える赤から飛び立つ煙をぼやりと見届けて、ソファから立ち上がった。
完全に鎮火した煙草は替えたばかりの真っ新な灰皿にぽつりと佇んでいて、意味もなく確認した俺は今度こそリビングを出た。
外に足を踏み込んだ瞬間に後悔する。
いや、むしろ部屋を出た瞬間から後悔していたかもしれない。
夜だというのに頭がいかれそうなほどに熱い夏が、俺を殺しにかかっている、そうとしか思えない。
一歩踏み出すだけで温い湿った空気が肌を撫でつけてくる。不快感に眉が歪んだ。
このクソ暑い中、わざわざ大勢の汗とアルコールが混ざった空間に、素面のまま飛び込まなくてはならない自分にうんざりする。だが、うんざりしたところで現状が変わるわけでもなかった。
じっとりと絡む夏が鬱陶しく俺の前髪を撫でる。進める足にも、ティシャツにも絡まる。
不快感がどこまでも俺の気分を急降下させていた。このまま辿り着かなかったところで何ということもないだろう。思うくせに、それでも向かう右足と左足だけが律儀だった。
こんな時間まで起きていたからこんな面倒に付き合わされているのだと思うと、ますますうんざりする。俺はなぜ、こんな時間まで起きていたのだろうか、と。
考えてすぐに朝佳のことを思い出した。
俺はあいつからの連絡を待っていた。
いっそ惨めとも思えるような事実を思い出して、赤信号と共に足を止めては自嘲した。
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