1422人が本棚に入れています
本棚に追加
「一名様ですか?」
ニコニコと擬態音が付きそうなほどに顔を笑わせているそいつは、まるで初めて会ったかのように錯覚させるほど性格が違うように見える。それでもそのカラオケ店の制服を着た女は、確実に朝佳だった。
「朝佳」
間宮という名前の下に“いつも笑顔で対応します”という手書きのメッセージが付いたネームプレートをつけた朝佳はそのメッセージ通り、いっそ恐ろしくなるくらいに綺麗に微笑んでいる。
完璧すぎる笑顔は、俺が見たこれまでの不機嫌顔とは全く異なっていた。
名を呼ぶと笑う。
その顔のまま「いかがいたしましたか?」と首を傾げる。その態度の違和感に胸の内が痒くなった。
完全に他人の顔をする朝佳に眉が寄る。俺は今までここに何度も来ていたくせに。なぜ気が付かなかったのだろうか。
逆に、朝佳は俺がここの常連だと知っていたのだろうか。
そこまで考えてはっとした。
だから、朝佳はあの日、俺の所持品を持っていたのか、と。
ここの店員であれば、俺に煙草や鍵を届けるくらい簡単だ。それも同じサークルの同期だと知っていればなおのことだろう。
「いつからここでバイトしてんの」
あくまでシラを切る朝佳を無視して話しかける。そうすると朝佳はいかにも楽しげな顔をもう一度笑わせて「ルームにご案内いたします」と呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!