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朝佳は俺をただじっと面倒そうに見つめていて、その瞳が逸らされないのを感じると、言いようのない感覚が胸の内を蹂躙する。
20分なんてとっくに過ぎているのだろう。
相変わらずポケットのスマホは震えっぱなしだった。面倒だからこの際電源を切ってしまおうかと思うくらいなのに俺はそうしない。朝佳以外に事に、気を取られている時間が無駄だ。
「携帯、鳴ってる」
ほぼ視界が滲みそうなほどの距離に顔を寄せて、朝佳が不明瞭な視界の中で呟くのを聞いた。
案外動じないんだなと思ってから、そういえば図書館でも同じようなことをやった記憶があったかと思い出した。
朝佳の髪はあの日と同じように規則的に光を反射している。その睫も同じように真っ直ぐに光っていて、瞳はやはり無感情に揺らめいていた。
「そうだな」
「出ないの」
「出ねえよ」
こんな電話に出ている暇があったら、今すぐキスしたいんですが。そう、小さく仕掛けるように呟いた。
拒絶するのは知っている。俺も本気じゃなかった。その顔から冷静を奪いたかっただけだ。
「はあ、気持ち悪い」
それでも当たり前のようにシラケた目で俺を射抜く朝佳に、耐えられずに笑った。
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