シアターリスト 「永遠と瞬間」

12/21
前へ
/401ページ
次へ
こいつはぶれない。俺がどんなふうに見つめても同じ温度で声を返してくる。その平等すぎる反応は、どこか異常なくらいだ。 慎之介の気持ちが2割くらいわかった気がした。露骨に嫌がる顔を見ると、もっと乱したくなるのかもしれない。 「そんなに鳴らすなら急用かもしれないんじゃないの」 「お前は人の電話をスルーしておいて、それを言うのか」 言いながら喉元から一緒に笑いが出た。どんな矛盾だよと呟きかけて、ばつの悪そうな顔に呆気にとられる。 「……出られなかっただけ」 「折り返せばいいんじゃねえの」 「電話代の無駄」 そう、言った朝佳がはじめて目を逸らした。 何つう可愛げのない言葉だ。そう思った俺は、朝佳のことをマジで何も知らなかった。 「……ねえ、どけてほしいんだけど。業務妨害」 呆れたような声を出す朝佳が、逸らしていた視線を俺に戻す。それと同時にもう一度俺のスマホが着信を訴えかけていた。 そろそろこの場で話を続けるのは難しくなりそうだ。 遠くの方では派手にコール音が響いている。間違いなく、店員として働く朝佳のことを呼んでいる。 こいつは毎日無数のコールを3コール以内に取るくせに、俺の電話には永遠に出るつもりがないのかと思うと自嘲した。
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1423人が本棚に入れています
本棚に追加