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こいつはぶれない。俺がどんなふうに見つめても同じ温度で声を返してくる。その平等すぎる反応は、どこか異常なくらいだ。
慎之介の気持ちが2割くらいわかった気がした。露骨に嫌がる顔を見ると、もっと乱したくなるのかもしれない。
「そんなに鳴らすなら急用かもしれないんじゃないの」
「お前は人の電話をスルーしておいて、それを言うのか」
言いながら喉元から一緒に笑いが出た。どんな矛盾だよと呟きかけて、ばつの悪そうな顔に呆気にとられる。
「……出られなかっただけ」
「折り返せばいいんじゃねえの」
「電話代の無駄」
そう、言った朝佳がはじめて目を逸らした。
何つう可愛げのない言葉だ。そう思った俺は、朝佳のことをマジで何も知らなかった。
「……ねえ、どけてほしいんだけど。業務妨害」
呆れたような声を出す朝佳が、逸らしていた視線を俺に戻す。それと同時にもう一度俺のスマホが着信を訴えかけていた。
そろそろこの場で話を続けるのは難しくなりそうだ。
遠くの方では派手にコール音が響いている。間違いなく、店員として働く朝佳のことを呼んでいる。
こいつは毎日無数のコールを3コール以内に取るくせに、俺の電話には永遠に出るつもりがないのかと思うと自嘲した。
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