シアターリスト 「永遠と瞬間」

13/21
前へ
/401ページ
次へ
どうやら俺は相当嫌われているらしい。 そんな女に突っ掛り続けている理由などないだろう。負けるとわかっている試合をやるほど馬鹿じゃない。 そんな労力があったら、俺は部屋で映画を観ている。そう思うくせに、足は動かなかった。 「ちょっと、」 本格的に面倒そうな声を出した朝佳に苦笑して「じゃあ電話か今日送られるか、どっちか選べよ」と囁いた。 俺の言葉に、朝佳が気持ち悪いと返してくることはわかりきっている。それでも俺の口から出た言葉は戻ることはない。どうしてこんなことを言ったのだろうか。別に本気じゃない。 自嘲しながら朝佳の瞳を覗き込んで、思考が固まった。 「……終わるの、8時」 あの日と同じように耳元に囁かれた声は、俺の脳みそをめちゃくちゃに蹂躙して、揺さぶってくる。たしかに花の匂いがする。それと同じように柔らかに耳殻に朝佳の言葉が落ちてきていた。 「……了解」 その甘さに少しずつ、何かが壊れて行く気がする。 俺が呆然と口遊むと、朝佳は簡単に俺の体をすり抜けて、カウンターへと足を進めて行った。その横顔が、少し赤く見えたのは俺の都合のいい思考のせいなのかもしれない。 次にスマホが鳴った時、俺は思考を振り払うように地獄へと足を踏み入れていた。 「ハルチ!! おっせーんだよ!! 浮気でもしてたのかぁ!?」
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1423人が本棚に入れています
本棚に追加