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「してねーよ。つうかお前はいつ俺の彼女になったんだ」
呟いたはずが、声がマイクの大音量に消えた。
画面の中では男のアイドルユニットが白々しくウインクを決めている。
それに毎年何万もつぎ込む女がいることも知っている。今この曲をチョイスして熱唱している女がそれに当てはまっていることも知っていた。
「美紀さん今日も可愛いッ!!」
俺の言葉を無視するように叫んだ慎之介が俺の首に巻きつく。その途端に鼻腔に甘いムスクが絡みついた。
いつも香らせていないような香水の匂いを纏った男は、はた迷惑も気にせず歌う女に声を上げていた。
こいつはそんなに巨乳女がいいのなら、そろそろ真剣に付き合えばいいと思うのは俺だけなのだろうか。
「シンノスも一緒に!! ほら!!」
「ハーイ!!」
もはや犬よりも犬のように尻尾を振って巨乳に駈け出した慎之介が、俺を巻き添えにしてテレビ前に突っ込んでいく。テレビの中ではまたアイドルが謎の歌詞を歌って踊っていた。
「俺もサビと一緒にモンスターになって襲いますよ!?」
ふざけた男が笑う。
それに合わせてまんざらでもなさそうに巨乳が笑った。
正直に、なぜ俺はこんな茶番に巻き込まれているんだ、としか思えない。
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