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「ハルチ」
呼びかける声の先にハートマークがクラッシュしていそうだ。その癖にその声は俺が望むような女の声ではなかった。
「呼ぶな」
全裸の男が寄ってくる。
男にしては白い指先を俺の下半身に向けているその男に、鳥肌が立った。テーブルに無遠慮に押し倒されて寒気がしてくる。
勘弁してほしい。
何が楽しくて見せる必要もない全裸を見せなくてはいけないのだろうか。俺は素面だ。
「ハールチ」
甘く囁かれる声が、妙に慣れない位置から降ってくる。
当然だ。俺は男に愛を囁かれた経験がない。
そして現在進行形で起こっているような男にベルトを解かれた経験もない。いや、一生したくはなかった。抵抗するが、跨るように上から押し付ける馬鹿力男にはあまり効果がない。
ここまでか、と諦めた瞳を閉じた。
息を吐いて、奇妙なくらい好奇に満ちた視線から目を逸らす。
まあ別に減るもんじゃないかと一瞬でも思ってしまった俺は、きっとこのサークルに汚染されている。そうわかっていても、今俺のジーンズにかけられた指先を止める術は知らなかった。
「失礼します」
そう、だから、最低のタイミングで最低の事件が起こるのだろう。
男に脱がされかけている俺を一瞬目にした朝佳は、何事もなかったようにトレンチに載せているドリンクをべちゃべちゃになったテーブルの上に置いた。
一切動じない対応に、さすがの慎之介も俺の下半身を乱す指先を止める。
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