チェックリスト 「朝日と朝佳について」

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歓楽街と化していた街には中途半端な朝が訪れている。その朝の中を死んだ顔の社会人が闊歩していて、街は静かな苦しみを迎えていた。 さくさくと歩く朝佳はその死んだ道を踏み外すことなく一定の間隔で進んでいる。俺はその迷いない足さばきを見ながら同じように横に並んだ。 「眠くないの」 唐突に投げ掛けられる質問に横を向けば、確かに朝佳は俺の顔を見上げていた。 眠くないの、と呟く顔は単純な心配の色ではなく、どこか呆れた顔色のような気がするのはおそらく気のせいではないだろう。 「別に。つか、朝佳も眠くないのか」 「慣れてるから」 はい会話終了。 簡潔すぎる回答に、「そうか」としか言えなくなる。こいつは本当に俺と会話を続ける意思があるのかどうかも疑わしい。 爽やかという状況から50㎞はかけ離れているだろう場にあるこの街で、意味もなく女の横にいる自分が可笑しい。 普段なら真っ先に帰っているくせに、女を送るという謎の行動を取っている自分に呆れた。だが、やめるつもりはなかった。 「いつもこの時間に帰ってんの?」 「そうだけど」 そうだったら何だ。面倒なことをいちいち詮索しないでほしいと、顔色で主張してくる。あまりにも歓迎されていない。 朝佳は真顔をまっすぐに進行方向に向けたまま、小さく眉を寄せて不快感を示していた。その姿は、俺がさっきまでに見ていた“いつも笑顔の店員”とは正反対だった。
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