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「家この辺?」
「……なに? 個人情報だけど」
信号が赤を灯すと同時に立ち止まる。そのまま俺の顔を見上げて、あからさまに不快そうな顔を作った朝佳に問い詰めることをやめた。こいつは一筋縄ではいかない。
送る、と言ったわりにどこに向かうのかもわからない俺と、淡々と歩く朝佳の先にはちゃんと家があるのだろうか。それすらも疑わしいと思った。
もしかしたら俺に自宅を知られるのが、嫌なのだろうか。最悪のシチュエーションを考えながら、ほとんど喋ることもなく、空気に任せて足を動かした。
若干の酒が胃袋にむかついている。
二日酔いとまではいかないが、正気で立っていられるギリギリに保たれていた。あの戦場のような場で、この時間のために必死で自衛した己が馬鹿らしいような気がしてくる。
歩道と車道の境目に食い込まれるように転がっているゴミは、この街を象徴しているようだ。
汚いものが平然と転がる世界を、踏みつけながら生きる。
信号機が青く光るのを確認した朝佳が、また俺を気にすることなく歩く。朝佳の歩みはあまりにも真っ直ぐで、行く先に恐れなど一つもないような気がした。
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