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どうでも良さそうな言い合いの後に笑う朝佳に、なおさら訳が分からなくなった。
こいつは俺を避けたり、かと思えば急に無防備に笑ったり、とにかく何を考えているのか理解できない。
愛想もない。多分業務外では、笑いたい時しか笑うつもりもない。
朝っぱらに大学に行って、一体何をするつもりなのだろうか。
自学自習と言うのならば、本当に勉強でもしているのかもしれない。こいつならそういう姿も、想像も容易い。
「そういや、ノート、助かった」
「ああ、あれ」
想像と共に思い返して、礼を呟く。俺の言葉に、朝佳はあたかも忘れていたかのような声で返してくる。
「いつ返せばいい」
どうでも良さそうな反応だと理解していながら、わざわざ次の何かを作ろうとしている。
「別に、いらないからアンタが持ってれば?」
「あ、そ」
予想通りに、あてが外れた。やはり一筋縄ではいかないようだ。脳みそで呟いては、また可笑しそうに軽く笑う朝佳を見た。
「何、そんなに私に会いたいわけ?」
そんなわけないでしょとでも言いたげな声だ。
閑散とした校門の前で、夏のクソ暑い日差しが照り始めている時間に、朝佳は黒い髪を指先で柔らかく撫でながら、俺の目をまっすぐに視線で突き刺した。
自意識過剰な言葉を笑いながら口ずさんだ朝佳の表情が固まる。その顔色を見て、今更に自分が真剣な顔をしているらしいことを知った。
「会いたいっつったら、会ってくれんの?」
思うより先に空気に馴染んだ声に、驚いたのは俺の方だ。
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