チェックリスト 「朝日と朝佳について」

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「そんな冗談ばっか言ってたらいつか刺されるんじゃない?」 驚く俺を見ているくせに、朝佳は何の躊躇いもなく呟いた。冗談じゃない。少なくとも俺はサービス精神旺盛に女を口説くようなエネルギーを持ち合わせた人間ではない。 そのくせに、そう思われている自分にまた吃驚した。朝佳から見る俺はどんなやつなのだろうか。 出逢い頭にキスしたいとかイカれた様な事を言っている時点で、信頼感がゼロもしくはマイナスまで落ちていることは明白だ。 「冗談で気になってもいない女を送ったりするほど数打つタイプじゃねえよ」 「なにそれ、私の事口説いてんの?」 「あ?」 今更だ。悪態が唇から飛び出しそうになって、すんでのところで止めた。この女は、鈍感なのかすっとぼけているのか、よくわからない。 俺を見つめる視線は相変わらず真っ直ぐなはずが、どこを見つめて俺をどういう人間だと捉えているのか、全く掴みようがなかった。 「現在進行形で口説かれてることもわかんねえの?」 「今までデートと称するものに、当たり前に遅刻してくる人に口説かれたことがないからわからない」 「良い人生経験になってよかったな」 「しなくてもいい経験が人生にはあるということを経験できて良かった。ありがとう」
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