チェックリスト 「朝日と朝佳について」

11/15
前へ
/401ページ
次へ
つらつらと朝佳の薄い唇から弾きだされる言葉が、耳に流れる。テンポのいい言葉は、いっそ清々しくなるくらい刺々しかった。 そのくせに俺も朝佳も会話をやめないのは、どこかこの会話を楽しんでいる証拠なのかもしれない。 「で、自宅はどこですか。間宮さん」 「だから良いってば」 「あわよくば入れてもらうことを考えて言ってるだけだから、遠慮すんな」 「うわ、気持ち悪い」 「それは冗談だってわかるだろ」 げんなりしながら告げれば、不意に「うん、知ってた」と、柔い声が鳴った。 俺が目を見張ったのは、その声の柔らかさと同じように、朝佳が今までの中で一番気の抜けたような、淡い笑みを浮かべていたからだ。 店員としての完璧な営業スマイルとも、愛想笑いとも違うその表情は、何度見ても時空を歪ませる力を持っている気がする。 そう思う俺は、おそらくこいつの何かに強烈に誑し込まれていたのだろう。 「実家、ここから遠いから。週に2、3回くらいしか帰ってない」 「あ?」 「だから、別に、ここでいいの」 「遠慮とかしてないし、私も帰るのが面倒なだけだから」 その言葉に、初めて見た日の朝佳がフラッシュバックしてくるようだった。 あの日の朝佳は妙にシャンプーの匂いを香らせていた。湿った髪のまま寝そべっていたのは、大学にあるシャワールームを使用した後だったのかもしれない。
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1433人が本棚に入れています
本棚に追加