チェックリスト 「朝日と朝佳について」

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あの時間に部室に居たのも、バイトから大学に直行して、仮眠を取っては授業に出ていたのだろう。 朝佳の生活は俺の持つ大学生活のスタイルとは、大きくかけ離れている。その生活を思い浮かべては、朝佳に言われた言葉を思い返していた。 “時間の価値が違う” 確かにその通りなのかもしれない。朝佳には明らかに時間が足りていなかった。 「いつもここで寝てんのか」 「だったら、なに?」 「体持たねえだろ」 「やっていけてるから持ってるんじゃない?」 やっていけていないだろう。どこかでガタが来るはずだ。 ただでさえ泥酔した客相手に仕事をしているくせに、夏休みでなければ大学もある。そこまで思考して、また一つ、過去の記憶が縺れ落ちてきた。 あの日、俺が盛大に遅刻をかました日。 あの日の朝佳は自分で観たいと言った映画の最中に眠りこけていた。あれは映画が面白くなかったから眠っていたわけではなかった。間違いない。 「……無理すんなよ」 思わず親父のような渋い言葉が出た。俺の声を聞いた朝佳は「はぁ、」と言いながら、二の句が継げない俺を見て「じゃあ行くから」と呟いた。
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