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もし、そういう事情があったとして、それでも水商売ではなく、カラオケ店を選ぶところが朝佳らしい。
女ならそれを武器にした仕事をした方が高給で良いに決まっている。
おそらく俺が女であれば、そういう仕事をして金を稼いでいたに違いない。面倒なジジイに辟易としていなければの話だが。
バタバタと落ちるシャワーの粒を見つめながら、すっかり冴えてしまった頭を流す。それだけで生まれ変わったような気分になった。
あのクソのような空間からやっと平穏に戻ってきた実感が湧いた。自宅は至高だ。間違いなく。
明日も明後日もおそらく映研の人間に、地獄へ誘われ続けるのだろうが、そうなれば俺は合法的に朝佳と会う時間ができる。ふいに、打算的に思考している自分がいた。
そうまでして朝佳に会いたい俺は、もう認めてしまった方が良い。頭のどこかで、何かに囁かれているくせに、そ知らぬふりでベッドに飛び込んだ。
良く冷えたシーツが熱い肌に触れると、さっきまで冴えていると感じていた脳が、急速に思考停止して行く。
混濁する意識の中、また何かを訴えかけているスマホに手をかけて、珍しい男の名前がディスプレイに表示されているのを見ては、意識を軽く取り戻した。
“春哉、来週暇だったりする?”
健康的かつ爽やかな朝の陽気のような軽やかな誘いは、椎名藤から送られてきたものだ。そのメッセージに“たぶんひま”と打ち込んだ俺は、送信を選ぶ前に力尽きた。
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