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「……今すぐ私の事、追い出してよ」
声に詰まる俺に、朝佳の言葉がまた襲い掛かってくる。
じっと俺を見る瞳は正気のようで、朝佳が熱に浮かされておかしなことを言っているわけではないことを察した。
ベッドの上に押し込んだ体は、弱々しい力で外へ出ようとしている。それも、うまく体に力が入らないらしく、ふらりと倒れ込んではまた、ベッドに逆戻りしていた。
こんな最悪のコンディションで、こいつは何を言っているのだろう。人より自分の心配をしたらどうなんだ。
弱々しい姿に胸が熱くなる。その姿を見るだけでどうしようもなく揺さぶられるのだから、はじめから、俺の答えは決まっていた。
「巻き込めばいいだろ。……そうしたら、俺はもっとお前と一緒に居れんの? 本望じゃん」
呟いたら、朝佳は一瞬、泣き出しそうな顔をした気がした。
「ほんとう、きもちわるい」
「お前、マジで失礼だな」
ケラケラ笑いながら呟いて、朝佳の額に張り付いた前髪に手が行く。
あと数センチで触れそうなところで、急に思いだした。
ああ、そういえば、勝手に触って良いような女じゃないんだった。
今更に思い出して、その瞳をもう一度見る。
「触っていいか」
聞くと、朝佳はぱちぱちと瞼を瞬かせていた。そんなことを聞かれると思っていなかったらしい。
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